参ノ縁・配信の怪(屍)
それから、枠に居るリスナーと兄さんに簡単な【コトリバコ】の説明をしてから私は改めてミエル君に話しかけた。
「あの、後出しみたいになるんだけど……実は、私もちり紙を視た瞬間【コトリバコ】って言葉が頭に浮かんだんだよね」
「だと思います。リンゴさん(当時の配信で使っていた名前)、俺より霊感強そうだから……」
「解るの ? 」
「何となく……」
「そうなんだ……あ、ねぇ。君、最初から枠に居たの ? 」
「はい。最初から居ましたよ」
「そうか、あのね。最初のイラストを視た時さ。
何故か【
「俺も、そう……思います。ただ、それが本当の【
あの手紙を書いた人が、そう呼んでいた何か別の悪霊である可能性もありますから」
「なるほど……じゃあ、【3日後】って書かれてたのは」
「……多分ですけど、この手紙を手にした人の元に【
詳しい方法までは、解りませんが……で、あの…………凄く言い辛いんですが……」
「ん、何 ? 」
ミエル君は、一瞬口ごもってから意を決した様に言ったんだ。
「この【
その時の時刻は、23時過ぎだった。私は、自室に居たんだけど……何か嫌な視線を感じてカーテンを開けっ放しにしていた窓に目を向けたんだよね。
凸に上がっている事も忘れ、危うく叫んでしまいそうになったよ。
だって、窓の外に死装束を着た全身ずぶ濡れの黒髪の女が立っていたんだからね。……叫ばなかった私を誰を褒めてくれ。
私は、自分でも驚く程の速さで立ち上がると窓に歩み寄って即座にカーテンを閉めたよ。心臓が煩い位、ドクンッドクンッと激しい音を立ってていた。
不用意な事を言って、リスナーを怖がらせてはいけないと思った私は怖い気持ちをグッと堪え会話を続けながらパソコンを起動した。
検索ワードは【除霊 素人 やり方】。今の私なら、ある程度知識はあるんだけどね。
もしかしたら、ミエル君はあの時点で既に私の所に何かが居るのに気付いていたのかもしれない。だって、声が凄く怯えてたから……
茶封筒は、その枠が開かれる前日の夜に廃墟で発見された。枠の開かれた日を、発見から2日目とすると……翌日が【3日後】と言う事になる。
つまり、私にはもう時間が残されてなかった訳だ。
「このまま、死ぬのかな ? 」……そう思った時。またしても「初見なんですが、凸にお邪魔して良いですか ? 」っとコメントが来て兄さんがその人も凸に上げたんだ。仮名は……そうだな。
闇夜さんにしておくね。これは、ある曲のタイトルから取った名だよ。
彼、その曲のMVに出て来るキャラに雰囲気が酷似してるんだ。そして、闇夜さんが上がって来た瞬間。
ミエル君が小さく呟いたのが聞こえた。
「あ、空気が変わった ? 」
私も、ミエル君と同じ事を思ったよ。闇夜さんは凄く落ち着いた雰囲気の男性でね。
「ええっと、初めまして。闇夜と言います。
何やら物騒な事をしていたのでね。面白そうだなって思い凸に上げてもらいました」
「そんな物騒かな ? 」
「物騒と言うか……不謹慎っと言う方が正しいですかね ? 」
なんて、事を嫌味たっぷりに兄さんに言っていた闇夜さんは不意にミエル君に話を振っていた。
「ところで、君。ミエル君だっけ ?
さっきから、ずいぶんと体調が優れない様だね。今日はもう、この枠を出てアプリ自体も閉じて寝てしまった方が良い。
大丈夫。後の事は、任せろ」
「……はい。では、お言葉に甘えて今日はもう落ちようと思います。
枠主さん、リスナーの皆さん急にお邪魔してすいませんでした。リンゴさん、色々言いましたが……多分。もう大丈夫だと思うので、お体にだけ気を付けて下さい。
では、失礼します」
ミエル君が凸から落ちると、闇夜さんが再び兄さんに話しかける。
「あの。別にお祓いとか、そう言うのじゃないんですが……少し、空気を変える為にちょっと祝詞を読んでも良いですかね ? 」
「何それ ? 」
「簡単に言うと、お経の様なモノですよ」
「……まぁ、長くなきゃ良いよ」
流石の兄さんも何かを感じていたのか、思いの他あっさりと祝詞を読む許可を出していた。
「ありがとうございます。
では……高天原に神留り坐す 皇親神漏岐 神漏美の命以ちて
八百萬神等を神集へに集へ賜ひ 神議りに議り賜ひて…………………………」
とてもハッキリとした力強い声……読み終わった瞬間。身体と言うか、部屋の空気が一気に軽くなった様に感じた。
そこで私は、恐る恐るカーテンを開けて確認したよ。すると、そこにはもう誰も居なかったんだ。
あの時視たモノは、私が生み出した幻覚だったかもしれないけど……それでも、私は今も闇夜さんに命を救われたんだと信じている。そして、兄さんはなんと仏壇のおりんまで持ち帰っていてさ。
しこたま怒ってから、翌日寺へと持って行く事を約束させたよ。ほんと、困った人だよね。
寺では、軽くお小言を言われただけで済んだらしいけどさ。
それと、闇夜さんが凸に上がって来た時。空気が変わったと感じるより先に、私は何故だが「ようやく会えた」そう思ったんだよね。
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