弐ノ縁・七五三の神隠し(上)

 皆は、七五三の思い出って何かある ? 

 私はね。神隠しに遭ったよ。


 

 その日、両親と弟2人それから祖母と曾祖母の計7人で神社へ行ったんだ。曾祖母に赤い着物を着せて貰って赤い草履も履いて、私はルンルンで石段を駆け上がった。  

 でも、神社に着いて直ぐ買った【千歳飴】の袋が邪魔で正直すごく歩き辛かったよ。まぁ、頑張って登り切ったけどね。

 そんで、登りきった私は振り返り後から来ている家族にドヤ顔しようとしたんだ。




 でもね····そこには、誰も居なかったんだよ。


 私の家族だけじゃない、他の参拝客も誰も居なかったんだ。驚きはしたけど、日中でまだ明るかった事もあってそこまで怖いとは思わなかったけどね。

 だからさ、1人で境内を散策して回ったんだ。歩き回っていたら、何処どこかに誰か居るかもしれないと思って。

 でも、どんなに歩き回っても人っ子1人見つけられず流石に不安になってきた時。


 ふっとね。「へ行こう」と思ったんだ。


 そこの神社ってのは、別に稲荷系列って訳じゃなかったと思うんだけど……境内の端に小さなが置かれてたんだよ。私はどう言う訳か「そこに行けば、きっとなんとかなる」っと、根拠の無い確信を持ってたんだ。



 でさ、いざに向かって歩き出したらね。途中で、ある筈のない竹林が目の前に現れたんだ。

 現在もある神社だし、地元の人に話せばの周辺に竹林がないのは今も確認は出来るよ。


 私は少し違和感を覚えたモノの、そこは怖いもの知らずの七歳児とでも言うべきか……ずんずん竹林の中を進んだんだ。今なら、ある筈のない竹林とか回れ右して引き返すけどね。

 多分、当時の私なら目の前に謎の扉があっても臆する事なく開けちゃってたと思う。まぁ、そんな 訳で竹林を進んで行くと当初の目的だったが見えて来たのね。

 けど、そこにはまたしてもある筈ない大きな岩があったんだ。


 しかも、岩の上には黒い着物を着た男性が後ろ向きで座っていた。驚いたけど、ようやく人を見つけた安心から私は男性に駆け寄って声を掛け様としたんだ。

 するとね。タイミング良く、男性が振り返ってくれた。

 ただ、顔は解らなかった。だって、猫を摸した黒いお面を着けていたから。

 「不思議な雰囲気の人だな」なんて思っていたら不意に頭の中に声が流れ込んで来たんだ。私はその声と会話をした。


「なんだ ? また、迷子か ? 」

「違うもん ! 私は、迷子じゃない ! 

 居なくなったのは、皆の方だもん ! 」


 当時の私、怖いもの知らず過ぎよね。そんで、お面の男性が「ふ〜ん」みたいな反応した直後に無言で私の後ろを指さしたの。

 振り返ってみると、そこには黒猫が座ってた。鈴の着いた赤い紐を首に巻いた可愛い黒猫だ。

 当時から既に無類の猫好きだった私は即座に猫に駆け寄った。そして、頭を撫で様と手を伸ばしたその時……


「にゃー」


 短いけど、凄く綺麗な……本当に鈴の鳴る様な声で黒猫が鳴いたんだ。その瞬間、私は何故か反射的に振り返ったの。

 すると、そこにはだけが鎮座していた。


 周りを見渡して見ても、竹林も大きな岩も何処どこにも無かったんだ。お面の男性の姿も見当たらないし……まさに、狐に化かされた状態で放心してしまった。

 そうして居ると、何処どこからか声が聞こえて来て母が血相変えて私の元へやって来たんだよね。

 

「 ? 」

めぐみ ! 探したわよ ! 」

「え ? 何言ってるの ? 

 居なくなったのは、お母さんたちでしょう ? 」

「何、訳の分からない事を言ってんの ? どうせ、お手洗いにでも行こうとして迷ったんでしょ ?

 

 ほら、皆待ってるから戻るよ ! 」


 私は全然納得いかなかったけど、それ以上言い合いをしても埒が明かないので渋々母の言う事に従った。





 正直……この時の出来事は歳を重ねるにつれ、自分でも白昼夢を見たんだろう位に思ってたんだよね。だって、普通に考えたら有り得ない事だらけだもん。

 でも、7年の歳月を経てこの出来事が現実だったと思わざるを得ない体験を私はする事になる。

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