真実無妄

里 惠

壱ノ縁・リス組

 これは、私が幼稚園児だった時の話。私が通っていた幼稚園は、組の名前が果物で【りんご組】【いちご組】【ぶどう組】【みかん組】と言う感じだった。


 でも、一個だけと言う使われてない組があって……他が果物の名前だったし、幼心に「なんで、ここだけ動物の名前なんだろう ? 」っと疑問に思った事を今でも覚えている。


 しかも、その教室2階にあったんだけど何故か階段には机が積み上げられていて行く事が出来ない様にされていたの。先生に直接その理由を聞いた事があったけど


「あの教室は物置になってて色んな物が置かれてるから、

 皆が入り込まない様にしてあるんだよ」


 みたいな返答をされた。


 しかし、教室に入ったらいけないと言うだけなら鍵を掛けてしまえば良い筈。階段に机まで積み重ねているのは、とても不自然に思えた。

 まぁ……幼稚園児なんて好奇心の塊なので、数日経つ頃にはすっかりその事も忘れて普通に過ごしていたよ。



 そんなある日、幼稚園の砂場で遊んでいると2階の窓……ちょうどの場所に女の子が立って居るのが見えたんだよね。でも、再び見た時にはもう誰も居なかったんだ。

 気の所為かなとも思ったけど、どうしても気になってしまった私は幼稚園の中に戻った時に階段を確認しに行った……でも、そこには相変わらず机が積み重ねてあり流石に体の小さい園児でも通り抜けるのは無理そうだった。

 なので、私はやっぱりさっきのは見間違いだったんだと思いお昼寝の時間になって皆と布団を並べて眠りについたんだ。



 目が覚めると、その日は珍しく私以外に起きてる子は1人も居なかったんだよ。何時いつもは誰かしら起きていて先生たちがてんやわんやしてるのに……不気味なほど静かすぎる教室の中でほんの少し怖さを覚えながら私は教室を出た。



 (このあたりの記憶、最初の頃は周りも真っ暗だったから【お泊り保育】での体験と誤解してたんだよね。でも、母親に確認したら私は【お泊り保育】嫌がって出来なかったらしい。

 それを聞いてから、そう言えば幼稚園バスに向かいながら「お泊りやだー ! 」っとギャン泣きしたなって思い出したんだよね。恥ずかしい……)


 

 で、まぁ話を戻してお昼寝の時間に目が覚めた私はお手洗いに行きたくなって廊下に出たんだ。でも、奇妙しいんだよ。

 何時いつもはいている筈の廊下と職員室の電気が消えてるんだ。その代わり、別の場所には電気がいていたんだけどね。

 それが、あの2階に続く階段だったんだ。私は驚きと恐怖で一瞬身を強ばらせたと思う。

 だけど、子供特有の好奇心もあって恐る恐る階段に近付いてみたんだ。そして、階段の上を覗き込んだ私はまた固まった。

 だって、そこには私と同じ橙色の園服を着た少女が立っていたから……十秒の沈黙の後、少女が私に話しかけてきたよ。


『今日のお昼、砂場で遊んでたでしょ ? 』


 そう言われて、私はようやく窓から私を見下ろしていた少女だと気が付いたんだ。だけど、返答を待たずにいつの間にか目の前まで来ていた少女は私の右手首を掴んで詰め寄って来た。


『ねぇ、代わってよ』


 訳が分からなかったのと、とても冷たい少女の手に恐怖してしまい言葉を発する事が出来なかったよ。でも、少女はそんな 事お構い無しに続けて言うんだ。


『あなた、友達居ないんでしょ ? 何時いつも、1人で遊んでるもんね ? 

 だから、私と代わってよ。良いでしょ ?


 どうせ、1人で居るなら私の代わりにあの教室に居てよ。私も自由に遊びたいの、ねぇ』


 私は本当に怖かった。少女の黒目がだんだんと大きくなり握られた手の力も幼稚園児とは思えない程で……本当に怖くて怖くてもう、泣き出す寸前になった時。

 ふっと、私の両肩に誰かが手を置いた感触があって直後に耳元でこう囁かれた。


「嫌なら嫌とはっきり言え、お前の体はお前の物だ。

 自分で守れ」

「い、やだ……」


 聞いた事もない男性の声だったけど、どこか懐かしくて安心できる声で私はなんとか声を絞り出す事が出来たんだ。すると、少女は両目をカッと見開いて血の涙を流しながら叫び出した。


『どうして ? ! なんでよ ! 

 かわれかわれかわれかわれかわれかわれかわれかわれかわれかわれかわれかわれかわれかわれかわれかわれかわれかわれかわれかわれ ! ! 」 


 そこで私の恐怖心は最高潮となり、意識が途切れたんだ。


 次に目を覚ますと私は布団に眠っていたよ。だから、最初は「怖い夢を見たのかな ? 」っと思いトイレに行ったんだ。

 でも、手を洗う時に自分の手首に着いた痣を見て驚愕した。


 薄らとでもハッキリとした、当時の自分よりも少し小さな少女の手形·····泣きながら先生達に説明したけど、信じては貰えなかったな。





 あの時、聞こえてきた男性の声が何だったのか……この時の私には、まだ解らなかった。でも、彼はそれから何度も私を助けてくれたんだ。

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