第13話 ラーメンだけで満足しておきなさい

「おい魔王! いい加減に米を返せ!」


 とある日の午後、迎賓館の応接室はまた人であふれかえっていた。彼らは一様に油じみた、見慣れない服を着ている。


「今日はラーメン店の店主がそろい踏みですか。カンフー映画っぽくていいですねえ」


 どんどん地上慣れしてきた副官が言う。


 ラーメン・カンフー……奴らの武器は中華鍋に寸胴鍋か。鈍器持ってきやがって。当たったら地味に痛そうで嫌だな。


「はあ……」


 しかしこの程度で怯える私ではない。少し迷った末、天井に少し細工をしてみることにした。


「な、なんだ!?」

「鍋が、勝手に動く……!」

「天井が磁石になってるからな。鍋を捨てないと、そのうちお前たちの体も上にくっつくぞ」

「そんな!!」


 強気な態度を一変させ、鍋を返せと泣くカンフーたちを迎えに来るよう総理に言いつけてから、私は少し奥へ下がった。


「全く、度しがたい連中だ」

「お見事でしたよ」

「そもそも、奴らの店は麺を食べに来るところだろうが。寿司屋やおにぎり屋に文句を言われるならまだ分かるが、ラーメン屋にまで文句をつけられる筋合いはないぞ」


 もはや言いがかりのレベルだ。下等種族の脳味噌って、これだからやーね。


 私の言葉を聞いて、副官が苦笑いした。


「ラーメン屋では、サイドメニューとして白米やチャーハンを出しているところが多いですよ。逆に麺しかないところの方が少ないのではないでしょうか」

「日本人、炭水化物を重ねるのが好きだな……」


 いろんな人間が奔走しているのは分かったが、少しは控えた方が健康的になる気がする。バフムを食え、バフムを。


「なんだ。炭水化物を重ねると、そんなに奴らの体にいいのか?」

「いいえ。栄養のバランスが悪いと、体の調子も悪くなるでしょうねえ。油分と塩分がたっぷりのスープも、あまり体にいいとは言えませんそ」

「……自分で勝手に病気になってれば世話ない」


 副官はそれを聞いて苦笑いした。


「店側が推奨しているところもありますからね。トマト風味のスープだと、リゾットのような感じで美味しいと女性にも人気のようで」


 確かにそれは美味そうだ。ちょっと食べてみたい。


「スープを少しずつご飯にかけたり、具をよそったりして丼にする人もいるみたいですよ。もともと、麺だけでは物足りないという声で始まったサービスだそうです」


 ……確かにもっともらしく聞こえるし、そういう場合もあるのだろうが。


「なんだかんだ言って、実のところスープを廃棄するのが勿体ないっていう店側の都合なんじゃないのか。油なんて、配管には毒だろ?」

「しーっ!!」


 私が言うと、ラーメン・カンフーたちが一斉に慌て出した。……まあ、強者の余裕としてこれ以上は言うまい。


「しかし、新たなやり方が見えてきたな……」


 今の奴らの飯に不足しているのは、健康志向だ。味だけに流されるから米に依存している。食べれば食べるほど健康になるという存在になれば、バフムは崇められる存在になるかもしれない。紆余曲折してきたが、これが答えだ。


「ははは、さっそく我が国の研究者たちに調査させよう!! 首を洗って待っていろ、下等種族ども!!」


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