第11話 狂気のコメ・増殖術(中編)
「……さて、どの米から出す?」
私は副官に聞いた。
「まず最初はコシヒカリからいきましょうか。国の北端と南端以外、ほぼ全ての地域で作られていた米で、作付面積もトップです」
「なんとなくイメージはできたぞ。つまり、日本人が思い浮かべる米のスタンダードというわけだな」
私が言うと、副官はうなずいた。
「作られ始めたのは七十年以上前といいますから、そう言ってもさしつかえないでしょうね。孫子の代まで食べ次がれるとは素晴らしい」
「ま、その伝統ももう終わったがな」
私がふんぞり返って笑うと、副官も苦笑した。
「ちなみに名前は、最初に育て始めた地域が『
※越の国=今の北陸地方。
「ふうん」
そもそもそんな成り立ちがあったとは知らなかった。ひとつ詳しくなったな。なんであれ、知識が増えるのは良いことだ。
「甘味と粘りが強く、和食とよく合うようですね。では、おかずに鯖の味噌煮でも用意しましょうか」
そう言って副官が出してきたのは、なにやら全体的に茶色っぽいおかずだった。ぱっと見は魚のようだが、今までと違ってなにやら茶色でどろっとした液体に浸かっている。いきなり食べろと言われると、なかなか勇気がいった。……全然違う文化の飯って、たまにすごい外見のやつがあるよな。
「魔王さま、この茶色いのは味噌ですよ。日本料理には欠かせない調味料で、別に毒ではありません。怖がらずにどうぞ」
「うむ、そうか。全く怖くもない。食べる、食べるぞ」
それでも一口目は、米だけにした。まず最初に甘味がきて、口の中で米がよく粘る。しっかり食べている感じがする米で、広く主食となるのも納得だ。
そして問題の味噌煮だが……食べてみると、メチャクチャ美味かった。特に煮汁のなんともいえない旨みと塩味。何で作ったらこんなものが出来るのか、不思議なほどだ。
私は米と味噌煮の組み合わせに夢中になった。そこに、わざとらしい咳払いが聞こえてくる。
「ええい、食べる邪魔をするな」
「……私以上に気に入っておられるようで、結構なことですね」
副官の言葉で、私ははっと我に返った。これ以上立場が弱くなる前に、渋々であるが箸を置く。
「お止めになるんですか?」
「当然だ。早く次に行くぞ」
次はササニシキ。粘りが弱くあっさりしているのが特徴、と副官が言う。
「さっきのコシヒカリとは違い、味が強くなくて素材の邪魔をしないんだとか。歯ごたえも強くないようです」
「本当に詳しくなったなあ、お前」
「インターネットの力ですよ。ササニシキに合わせるなら、魚がいいでしょう。美味しい刺身でも出しましょうか」
「わーい」
今度は安心感のある料理が出てきたが、やはり最初は米からいこう。
「ん……うん。美味いが、さっきのとは違うな」
確かに、ほぐれやすいし、しつこくない。その分、インパクトの強い食材と合わせるとかすんでしまいそう。適材適所とはよく言ったものだ。
「高級寿司店でも採用されていたようですよ」
「なら、人気があったのだな」
私が言うと、副官は首を横に振った。
「そうとは限りません。美味しいですが、病気に弱いのがちと残念といったところでしょうな。暑さにも弱いので、昨今の夏の気候も追い打ちになっているようです。作付け面積も減っていたようですから、苦境なのは間違いなかったでしょうね」
「ふうん。私は気に入ったけどな……」
栄える米もあれば消える米もある。ショギョームジョーというやつだが、ちょっぴり寂しい。
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