第6話 ワガシ・シルキーの悲哀
「総理か。最近お前が来ると無駄話ばかりで、あまり楽しくないのだが」
「私は大変楽しいですよ。他の業務が地獄みたいな形相ですので」
遠回しにお前のせいだと皮肉を言われて、私は話を変えることにした。
「……総理よ。何か、気付いたことはないか?」
何を隠そう、私は魔力をためて見た目をバージョンアップさせたのだ。よりいっそう艶やかな体、銀色に輝く瞳。そして極めつけは体の周りを飛び回る光球。これによって私は常にライトアップされるし、魔法として敵にぶつけることもできる。
さあ。畏怖せよ。わめけ。泣き叫べ。
「はぐれメ○ル……」
「は? なんだって?」
「倒すと経験値がたくさんいただけそうですねえ」
私は急遽副官に相談し、自分が架空のモンスターそっくりになっていることをつきとめた。
「情けない下等種族がッ!!」
褒め言葉ひとつ満足に言えんのか。やはり、脳の作りが我々と違うのだろう。……しばらく元の姿には戻れないから、はぐれメ○ルでいるしかないのだが。
「で、お前の後ろにいる白い装束の奴らはなんだ」
なんかちょっとこの前のタイショーに似ているが、彼らは刃物を持っていない。そのかわり、しきりに手でなにかをこねくり回していた。
「和菓子職人ですよ。餅菓子は和菓子の王道。それを奪われては、生活が成り立ちません」
「……だからまた餅を出せとか言わんだろうな」
忘れられているような気がするが、我々は侵略者なのだぞ。とんでもない要望だ。
「彼らも落ち度なく職を奪われたのですから、少しくらいお慈悲をくださってもいいと思いましてね。なにせ、この状態です」
総理に話をふられても、白装束たちはうつむいたままだった。
「我々は衝突などできません……」
「ただあんこを丸めるのみ……」
「悲しき妖精……」
「そ、そうなのか。でも、包丁とか持たない方が平和的でいいと思うぞ」
頑張れ、とも気軽に言えない雰囲気だったので、私はそう言うしかなかった。ああ、悲しみのワガシ・シルキー。
「アレ? でも、和菓子には練り切りもありましたよね。あれは餅ではないので、それを売れば簡単では?」
甘い物好きの副官がつぶやいた。総理は首を横に振る。
「つなぎに求肥を使うから一緒なんですよ。アレも原料はもち米ですから。特定地域では芋を使ったりするそうですが、急な需要増加には対応しきれていません」
「だからあんこしかない」
「ない」
「す、少しは前向きに生きよう。ほら、餅も求肥も出してやるから」
暗い表情のシルキーには、まるで幼児をなだめるような対応をしなくてはならず、私は内心ため息をついた。
「おお……」
「我らの生きる糧……」
シルキーたちは喜々として仕事を始めた。こういうところは同じ職人ということもあって、タイショーに通じるものがある。……しかし、多少細工に時間がかかるようだ。
ようやく菓子が出来上がった頃には、私はすっかりたまっていた仕事を済ませていた。実に有能。自分で自分が怖い。
「いや、実にそっくりにできるものだな……」
私は振り返ってみて、彼らの作った練り切りの完成度に驚いていた。私の目や軟体のくねり具合まで、細かく切ったパーツで完全に再現してある。私情に走るのはいけないことだと理解してはいるが、やっぱりそっくりに作ってもらうと嬉しい。
「正直予想以上だ、食べるのがもったいないな。素晴らしいぞ、総理」
「ありがとうございます」
「……で、横にあるこのバカでかいサイズの餅はなんだ?」
「伝統的な作法では、切らずに一気にいただくのです。無理をしてでも食べてください」
総理は頑なに壁の方を向いたまま言った。
「絶対に嘘だろ!! こっちを見て言え!!」
今度は窒息死狙いか。こいつらは何があっても私を殺そうとしてくる。……それならば、何か心を折る手を考えなくてはな。
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