第7話 侵略者としての矜持
とある午後、私と副官は顔をつきあわせて話し合っていた。
「……今のところ、あのクソ総理との勝負は一進一退だ」
「あの様子で半分勝った体にできるなんて、魔王様メンタル強いですね」
ちょっと心に突き刺さったが、なんでもない振りをして誤魔化した。
「まあ、聞け。この状況を打開するアイデアを思いついたんだ。あいつら、結局美味ければなんでも食うよな?」
「まあ、河豚の卵巣食べるくらいですからねえ」
「だからバフムを美味くすれば、あっちから這いつくばって売って下さあい、と情けない姿をさらすのではと思う」
それを聞いた副官は手を打った。
「いい考えですね。で、具体的にはどうします?」
「…………」
「ノープランですか?」
「……ほら、何か考えなさいよ」
「魔王様も考えなさいよ」
ヤケになった私たちは、しばし互いに責任をなすりつけあった。
「……不毛な時間だったな」
「このままバフムをにらんでいても始まりません。なんとか調理してみましょう」
一旦手打ちとし、調理道具を抱えて持ってくる。魔法でやれば簡単だが、下等種族たちが自宅で処理できなければ広まらないだろうからな。
まずは、定番の煮る・焼く・蒸すを全て試してみた。
「……焼くと硬いな」
「煮ても繊維が頑丈で、あんまり味がしみませんね」
「蒸すと苦味が強調されてしまうぞ」
いずれにせよ、食べると元気がなくなる味なのは確かだった。
「バフムってこんなにまずかったか?」
「そりゃあ、魔王様は最高ランクのバフムしか食べてませんからね」
バフムは収穫後、五段階にランク分けされる。最高級のバフムは実も大きく皮も綺麗な赤色をしているが、下の方になると痩せて元気がなく、枯れかかったような茶色い実だ。
「そうだった。国が安定し、さすがに下から一、二番目のバフムは誰も食べなくなってきてたから、日本に売りつけようとしてるんだった」
「どうやったら食べられるようになりますかね……」
「とりあえず繊維が硬いのがダメだな。細かくすりおろしてみたらどうだ?」
ミキサー、という機械に水と共にバフムを入れ、しばしすりおろす。そしてできあがったどろっとした液体を前に、再び私たちは考えた。
「スープと言うには粘度がありすぎか」
「このままではあまり保存に向きませんね。もう少し練って、団子みたいにしてみますか」
「いいな。ちょっと凝固剤も入れてみよう」
凝固剤を入れて練り、丸めてしばらく置いておくと良い感じに固まった。それを食べてみると、繊維がほぐれていて最初より遥かに食べやすい。
「醤油をかけてもいけますよ」
「本当だな。味噌でも合うかもしれん」
「やりましたね、魔王様」
「私たちだって、やればできるんだ」
働いた後のすがすがしさ。おお、流れる汗も美しい。
そこへタイミング良く、総理がやってきた。
「おや、今日はお料理を? 珍しいですね」
「幸運だな総理。いいところに来た」
私はうなずき、寛大にも自信作を総理に与えてやった。もちろん、たっぷりと製作秘話もつけて。ああ、こいつが驚く顔がようやく見られる。
「……ああ、同じ作り方をする食品なら日本にもありますよ? こんにゃくと言います」
「はい?」
まさか。こんな手間のかかることをしている食材が、すでにあると言うのか。
「しかしこれはこんにゃくよりクセが強いし硬いですねえ。美味しくないです」
総理は調理バフムをさっさと食べ終えると、皿も洗わずに帰っていった。後には大量の洗い物と、部屋の隅っこで背中を丸めている副官と、呆然としている私だけが残された。
しばらく経ってから、私の喉がようやく動き出す。
「日本なんて大嫌いだ──ッ!!」
それは、まごうことなき本音だった。
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