第1話(2)

学校まであと数百メートル。


そこにある横断歩道で事件は起こる。


信号をぼーっと青になるのを待っていたとき。


「きゃぁぁぁぁぁああッッッ!!!!!」


と女性特有の、鳥にも似た甲高い、眠気を吹き飛ばすような悲鳴が響き渡る。


流石に驚き、反射的に音の出処の方を見ると猛スピードで走るトラックが来ているではないか。


しかもその車体には真っ赤な液体が付着している。


恐らく血だ。


人間のものかどうかは判断出来ないがべっとりと付いていることから思いっきりぶつかったのであろう。


さぁいよいよかなりの位置まで近づいてきた。


近くの人は皆パニック状態。


例に漏れず俺もしっかりとパニックだ。


だがそんなカオスな状況からさらに目を疑うような光景が写る。


うちの高校の制服を着た、いわゆる清楚系の黒髪ロングの、この状況でも見とれてしまいかねない容姿をした女子高生が横断歩道に足を踏み入れたではないか。


耳にはイヤホン、どれだけの音量で音楽を聴いているのか。


全く物怖じせずにいる。


瞬間、俺の思考はスローになった。


これがいわゆるゾーンというやつか。


ここで俺には選択肢が与えられた。


彼女を庇ってこの生を終えるか。


それとも尻尾を巻いてさっさと逃げるか。


実の所、物凄く逃げ出したい。


いくらいじめられ慣れていたとしてもそれとこれとは訳が違う。


この生に自分では執着していないつもりでも生物には等しく常備されている生存本能が「逃げろ」と警鐘を鳴らしている。


ただ


現実では一瞬だが、自分の中では一生にも近い時間が経ったかと思うほど長い、長い思考を経て。


最後くらい人の役に立とう。


と思った。


大体自分より彼女の方が圧倒的に存在価値は高いし、自分は今の生にあまり執着していない。


最期の迎えかたにしてはよく出来た方では無いか。


そう決断すると人生で1番速いのではないかと自分でも驚く程の速度で駆けた。


彼女と俺の距離は5,6メートル。


トラックと彼女の距離は…


よく分からないがギリギリ間に合いそうな距離だ。


彼女の真後ろまで来た。


そのままの勢いでどつき、彼女の華奢な体は吹っ飛んだ。


あぁ、何とか間に合った。


トラックは目の前だ。


これで彼女は助かった。


そう思っていたが、


というか、自分でも忘れていた。


俺は容姿もクソなくせして運動音痴である。


超が付くほどの。


ここで自分でも思い出した。


そしてなんでもっと努力しなかった、と悔やんだ。


そう、俺の50メートルの記録は前人未到のの14秒台。


どれだけゾーンに入って運動能力が高じていても、たかが知れてる。


普通の人ならギリギリ間に合う距離でも。


間に合うはずがなかったんだ。


ドッッドン!!


まるで2人が車に轢かれたような。


そんな音が聞こえた瞬間。


俺の脳は思考能力を失った。












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