第2話

(あれ、連絡がないな…)


 不思議に思ったのは、恋人と会う予定日の前日だった。普段ならもう少し早く連絡が来て、当日の予定を決めるのに。今回はそれがない。


(これ、冷められたかな)


 ふと、そう思った。自分はサバサバした人間だから愛情表現があまり上手くない。好きとか、愛してるなんて言葉絶対言えない。だって恥ずかしいから。それに、彼氏にそこまで執着しないタイプだ。週に一回は会いたいとは思わず、むしろ月に一回会えればそれでいい。


 そうした自分の性格に前の彼氏は嫌気がさしたのか、『付き合ってるのに恋人には思えない』と言われてしまった。その言葉に、何も言い返せなかった。だって、無理に変わろうなんてできないから。


(今度は上手くやれると思ったのにな…)


 決まったわけではないが、そう決めつけた。明日になったら、『ごめん、別れよう』とラインが来るのではないか。サバサバした人間だが、フラれるというのは意外と心にくるものだ。


 河村若菜はそんなことを考えながら、スマホをスリープにして寝た。




◆◆◆



(おかしいな…)


 翌週。金曜日の仕事終わりに、スマホを見た若菜は怪訝に思った。一週間経っても、優也から連絡が来ないのだ。


 さすがに何かあったのでは、と思った。事故?病気?何かわからないが、ここまで連絡がないのは異常だ。


『大丈夫? 最近連絡がないから、ちょっと心配です……』


 すぐにそう連絡を入れた。果たして、彼からの返信は来るのだろうか。


 若菜は華の金曜日なのに、リフレッシュした気分にはなれなかった。



◆◆◆


(自然消滅? いや、彼の性格からしてそれは…)


 翌週にもなっても彼からの連絡はなかった。既読も未だ付いていない状態だった。


 ここまで不安に思ったのは初めてだ。同時にここまで自分は彼のことを好きだったことも知った。


 明らかにおかしな状況に若菜は困った。誰かに連絡を入れようか。そうした方が早く情報を掴めるかも知れない。


 そう思い立ち、若菜は同期で優也と仲がよかった遠藤正人えんどうまさとに連絡を入れてみようと思った。


『お久しぶりです。ちょっといいかな?松村君と今って連絡取り合ってる?』


 松村君、と打ったのは他人に優也君と呼んでいるのが知られるのが恥ずかしいからだ。ちなみに正人は同期の中で優也と交際していることを知っている数少ない人物だ。


 すぐに返信が来た。


『いや、してないけど。何かあった?』


 若菜は今の状況について打ち明けることにした。


『そうか。わかった。じゃあこっちでもなんか探っとくわ。何かわかったら連絡する』


『ありがとう』


 正人と連絡を取り、協力関係を築けただけでも不安が少し和らいだ。すぐにこの状況の謎を明かして、彼と連絡が取れた時には話し合わなければならない。


◆◆◆


 翌週、週の真ん中の水曜日。突如として連絡は来た。相手は正人だった。


『びっくりしたんだけど、優也のやつ仕事に来てないらしいぞ』


(は?……)


 その一文を読んで、若菜は固まった。仕事に来ていない? どういうこと?


 彼は失踪したということ? 


 本当にわけがわからなかった。

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