恋人

@Mukimuki111

第1話 


 河村若菜かわむらわかな松村優也まつむらゆうやは愛知県に構える銀行に、二◯二三年に同期入社した。


 四月の新人研修期間の一ヶ月間で二人は仲を深めた。わからないことはお互いに聞き、休み時間はプライベートのことを聞いて相性を確かめ合った。周囲からは二人がいずれ良い関係になることは明白だった。


 最初に仕掛けたのは若菜の方だった。仕事帰りに映画に誘い、彼の心を揺さぶった。


 優也の方もまんざらではなく、彼も動きを見せた。支店配属すぐのゴールデンウィークでどこか行かないかとデートに誘った。若菜はいいよと頷いた。優也の心は既に若菜に夢中だった。


 そしてデート当日。最高な気分でデートを終えた優也は、二人の関係性を変える言葉を発した。


『好きです。付き合ってください』


 恋愛経験が浅い彼は極度の緊張で一世一代の勝負にかけた。けど、不思議と振られる感覚はなかった。


 優也が求めていた答えは、彼女から返ってきた。これほどまでに心が震えたのは久しぶりだった。


 恋人関係になってお互いのことがさらにわかってきた。


 まず若菜は結構サバサバした性格だと言うことだ。恋人関係になる前は、意外と積極的だったが、関係後は不思議とさっぱりとしている。この変化には優也はさすがに驚いた。


 会う頻度も彼女は月に一か二でいいと言う。優也としてはもう少し会いたかったが、彼女とのペースを合わせるために了承した。


 優也の方はどちらかというと甘えたいタイプだった。けどベダベタまではいかない。手を繋ぐ、愛情表現をする。そういったことをして恋愛を楽しみたい。あまりそういう気のない彼女とは正反対だった。


 連絡は一日に一往復か二往復。話は仕事のことばかりだ。


 優也は信頼できる同期には若菜との関係を明かしていたが、「それって本当に付き合ってるのか?」と苦笑いされた。


 優也は気にする性格で彼女と上手くやってけるか不安だった。付き合いたて当初は彼女のことばかり考えてしまうし、彼女がサバサバした性格だから冷めたのかと思い、仕事に集中できないことがあった。


 しかし、何だかんだ付き合って三ヶ月は経った。若菜は相変わらずの性格だが、デートはしてくれるし、連絡はくれるから、一応は彼氏としては見てくれているのだろうと思った。


『まあ、俺たちは俺たちのペースでいっか』


 優也も付き合いたてよりは気持ちが落ち着いてにきて、心地よい日々を過ごせるようになった。これからがやっと仕事と恋愛が楽しめる。そんな軌道に乗ってきた。


 だがしかし。付き合って三ヶ月と少しが過ぎた頃。突如として優也は姿を消した。


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