第7話 秘密の約束
私が
同業になれば、普通に商会に就職するよりもはるかに高い確率で彼に会うことができるし、何より私の欲求も満たされる。Win-Winというやつではなかろうか。
そう考えると、モネ(本来の姿)に私の意識が介入してしまったのは運命的だったのかもしれない。ちょっとお節介かもしれないが、彼女の願いを叶えてあげられるのなら本望だ。
その代わりと言ってはなんだが、私の願いも少しだけ叶えてほしい。
これは私とモネだけの秘密だ。秘密の約束。
私は日記帳を閉じ、元の場所に戻した。
***
そしてとうとうやってきた、成人の儀当日。
この日は朝早くにたたき起こされて、儀式に臨むための準備に追われることとなった。
儀式用のローブに身を包み、ふわふわの髪はハーフアップに仕上げる。髪飾りは父母からの贈り物である。蓮の花を模したきれいな髪飾りは、最近流行の職人に作らせたものらしい。モネの髪に非常によく似合う、淡い桃色の花弁。それはまるで本物のように繊細な作りだった。
成人の儀に臨む子供たちは、身分に関係なくトゥーランド国の神殿に集まることとなっている。両親に連れられて歩いていると、その神殿の様子が徐々に明らかになった。
現世でいうところの大聖堂だ。何階建てだろう、この国の建物にしては非常に高さのある建物で、緻密な彫刻で装飾が施されていた。白色の建材は大理石だろうか、太陽の光を反射してとてもまぶしく見えた。
ルネちゃんに天使の恰好をさせて写真を撮りたい――
これが私の所管だった。こんなに素敵なセットで写真を撮ったら、ルネちゃんの神々しいまでのかわいらしさがとてもよく映えるだろう。ああそれにしても、ルネちゃんは今どうしているだろうか。こちらに連れてこられなくてごめん、ルネちゃんかわいいルネちゃんルネちゃん。
「モネ? どうしたの」
マイヤ様が私に話しかけてきた。「緊張しているの?」
「あ」
意識がトリップしていたことに気が付き、私は慌ててごまかす。
「実は……少し」
「大丈夫よ。儀式とは言っても堅苦しいものではないわ」
そう言ってマイヤ様が優しく微笑んだ。
その女神のような表情に、私はまぶしくて思わず「うっ」と目を細めてしまう。
こんな邪念ばかりの娘でごめんなさい! ドールのことばかり考えていました!!
つい土下座したくなったが、なんとか踏みとどまった。こんな道のど真ん中で土下座する子供なんて、不自然でしかないわよね。うんうん。
神殿の前までやってくると、ここでマイヤ様とはお別れだ。この先は子供が一人きりで向かうことになっている。
「ここで待っているからね」
マイヤ様が私を一度抱きしめて、「がんばっていらっしゃい」と激励を送ってくれた。
私は思わず泣きそうになったが、涙をこらえて大きくうなずいた。
「はい! 行ってきます。お母様」
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