第29話 結末へと至る道
事実がどうであれ、白日のもとにさらされば叛逆者として断罪されるだろう。
そして関与の有無に関わらず、ギルヴァース公爵家は監督不行届で処罰される。
ここで可能な限り策を講じなければ、下手をすると廃嫡やお家取り潰しが言い渡されてしまう。
回避するための選択肢はほとんどない。
ギルヴァース公爵家を守るために父が取れる行動で最も効果的なのは、嫡男を自らの手で断罪して血筋である俺が国王陛下の命を救ったと公言することである。
この家にはまだ次男がいる。それも理性的で心根の優しい人物のため、権威から自ら距離を置くような男だった。
しかし、頭の出来は長兄以上である。現在は王立大学の教授として身を置いている彼を呼び戻し、後継者とするのはそれほど難しいことではないだろう。
後のことは放っておいても無難に処理するはずである。
嫡男の命を奪うことにも大した躊躇はしない。それが父の強さであり、また弱さでもあるからだ。
北方へと向かった。
あの後、国王の容態に問題がないことは確認している。
再び問題が生じないようにエイルが護衛に張りついているため、そこは任せるしかない。
インペリアル・ロイヤルガードにも王弟派がいるようだが、後ろだてとなる人物が不在、もしくは死亡しているのだから鳴りを潜めるだろう。
今の状況で下手に手を出すと、王弟共々身を滅ぼす可能性が高いことに気づいているはずだった。
王都で力を持つ要注意人物の筆頭たちはあの世へ行き、その情報が出回ったことでその他有象無象の動きは牽制できている。
危惧するのは魔族の介入くらいのものだろう。
奴らはおそらくただ雇われているだけだと思えた。
何かを謀てているなら、真っ先に俺の命を狙ってくるはずだ。しかも中途半端なことはせずに、それなりにまとまった戦力を投入していなければおかしい。
少なくとも、俺を敵に回すことの厄介さは身に染みているはずだった。
「アルフィリオン様、王弟殿下の所在は判明しております。」
エルフのフィアが北方の一都市に到着したばかりの俺に接触してきた。
彼らエルフは自然を背景とした隠密行動に長けている。森林や街道でそれとなくこちらを監視する視線は感じていたため、そこから報告を受けていたのだろう。
「どこかの都市にいるのか?」
「いえ、ここより馬で三日ほどの位置に野営地を設けています。」
北方都市に視察に出向いて野営地とは、迎撃するつもりらしい。
「そこから移動する可能性は?」
「持ち込まれた食糧などを見る限り、少なくとも一ヶ月ほど滞在する可能性が高いかと思います。それと、騎士や兵士の数は約五十、加えて魔族らしき者数名が帯同しているとのことです。」
俺への対処として雇い入れたか。
やはり魔族は単なる傭兵といったところだろう。奴らは個々に高い戦力を持っている。しかし、地竜ドライアスなどの
敵の魔法を封じ、圧倒的戦力で蹂躙するのが信条である魔族の特性を考えると、戦力としては不足している。
「わかった。ありがとう。」
「最後までおつきあい致します。」
「いや、これ以上関わるな。」
「ですが、この程度では···」
「十分だ。ここからは王家の問題だからな。」
フィアには少し強めに言っておいた。
王弟が討たれる場にエルフが顔を揃えているなど余計な波乱を生む。
こちらも真正面から攻め込むつもりはないのだ。
彼女たちにはこの辺りで退場してもらった方がいい。
「俺にとってもエルフの里は第二の故郷だと思ってる。平穏な日々にしたいなら任せてくれないか。」
まだ後ろ髪を引かれるような顔をしていたフィアは、その言葉でようやく納得したようだ。
すべてのエルフが立ち去るのを確認してから近くの店に入った。
街中ではエルフの容姿は目立つのだが、あらかじめ認識を阻害するような魔法を使っていたようだ。メインストリートで立ち話をしていた俺たちを気にしている者はいなかった。
席に座り食事をオーダーする。
ゆっくりとできるのは今のうちだろう。
今日中にここを出て王弟のところに向かうつもりだった。
王弟が陣取る野営地が視界に入る場所へとたどり着く。
さすがに周囲に高台はなく、見晴らしのいい平原に位置していた。
野営地の場所というのは重要だ。
保持している戦力、見張りの交代要員数などを考えて位置取りするのは基本である。少人数の冒険者パーティーなら魔物や盗賊に襲われることへの警戒と、水の確保のため河川近くに陣取ることが多い。
しかし王族の移動ともなると物資の搬入用に人員や馬車を潤沢に用意していることが多いため、こういった平原での野営は敵からの強襲を避けるためによくあるケースだといえた。
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