第28話 生家にて父と対面する

「それを聞いてどうする?」


グランドマスターは不敵な目で俺を見ていた。


どうするかはわかっているのだろう。


「潰す。」


「なら答えられん。」


「わかった。」


俺はそれだけを告げて部屋を出ていこうとした。


「おまえの実家は今大変だそうだ。当代と違って、跡取りは王弟殿下と懇意にしている。」


「···そうか。」


「王家といい、筆頭公爵家といい殺伐としているな。天上の騒動といえばそうだが、将来的に庶民に苦を強いるような真似はやめて欲しいものだ。」


「一庶民の願いとして聞いておく。」


グランドマスターなりの配慮だ。


さすがに公的な立場から、真相を告げるリスクは犯せない。


そのため、今の短い言葉で遠回しに伝えてきた。『おまえの身内なのだから後処理をちゃんとしろ』ということだ。




冒険者ギルド本部を出て向かったのはギルヴァース公爵家だ。


この国で最も古い歴史と力を持つ公爵家で、俺の生家でもある。


もっとも、俺は混血のために正当な権利は早い段階に取り上げられていた。


もともと学校を卒業すれば独り立ちするよう言われていたため、ある意味でそれはおかしいことではない。


「ド、ドレッドロックス様!?」


門番は昔からいるギルヴァース公爵家お抱えの騎士である。少年期に家を出てから、ほとんどこの家には近づかなかったのによく俺だとわかるものだ。


母親に似ているからだろうと思った。母はハイエルフの血を色濃く引いていたため、誰もが振り返るような顔をしていた。もちろん、床に伏せるまでの話だが。


「入らせてもらうぞ。」


俺はそう言って門扉を跳びこえた。


下手をすると賊として囲まれるかもしれないが、邪魔をするようなら相手をすればいい。


今回は長兄に用があるわけではなかった。


屋敷内に入るまで誰も止めようとはしない。少なくとも、ここにいる者は冒険者としての俺の実力を知っている。止めようとしても相手にならないことを理解しているのだ。


「お久しぶりでございます。」


家令のデュームが出てきた。


彼はギルヴァース公爵家を誰よりも知っている男だ。様々な技能と知識を有し、単なる執事とはいえないほどの人物である。


「数分でいい。ギルヴァース公爵閣下と話したい。」


「承知致しました。では応接室にご案内致します。」


さすがにデュームといえよう。


普段はこちらから出向くことのない俺が来たことに、事の重大性を悟ったのだろう。こういったところは話が早くて助かる。




「突然現れて何用だ。」


父のギルヴァース公爵だ。


久しぶりの対面だろうと、ろくに挨拶もかわさない。


冷めた関係といわれればそうだが、その分面倒がなくていい。


「国王陛下が体調を崩されていたことはご存知でしょうか?」


「あたりまえのことを聞くな。」


「では、その原因が呪いのせいだったことも既にお聞き及びでしょう。」


この男は尊大な態度を崩さないが小心者である。


他者からは慎重派、保守的といわれているが、実際は自らの立場を磐石にすることを大事にしているだけだ。


もっと自分をさらけ出せれば、母に不幸は訪れなかっただろう。


母への想いが嘘でなかったことは知っている。ただ、この男はギルヴァース公爵家の重責に負けて、彼女を守り通すことをしなかったのだ。


公爵という立場を考えれば尊敬に値する人物なのかもしれない。だが、夫や父親としては頼りない男でしかなかった。


「その話は聞いている。おまえが解呪したというのもな。」


宮廷内に間者を忍ばせているのだろう。


その程度はいくらでも予想がつく。


「では、身の振り方をお考え下さい。」


「どういう意味だ?」


不機嫌な表情で睨めつけてくるが、内心では動揺しているだろう。


「俺でなければ解呪は難しい類だったということです。もし王都に来られなかった場合、陛下は助かりませんでした。」


「賞金首となったことを言っているのか?」


「そう仕向けたのは誰かということです。」


この男は嫡男が仕組んだことを知っているはずだ。


知っていて放置していた。


「私は関係ない。」


「あなた個人はそうでしょう。しかし、公爵家としてはどうでしょうか。」


「························。」


努めて無表情であろうとしているのだろうが、顔色から血の気が失せていくのはすぐにわかった。


普段はここまで表に出すことはない。


その程度の人物であれば、公爵としての発言力は維持できないだろう。


しかし今回は勝手が違うのだ。


次代の公爵である嫡男が、俺の命を奪うために裏でいろいろと動いた。


結果的に国王陛下の命を危険にさらしたということである。


「お伝えすることは以上です。」


俺はそう言って踵を返し、屋敷を出た。


王弟と長兄がどこまで共謀しているのかは知らない。


だが、俺にしか解呪できないような呪いに侵された国王陛下を、間接的に死に追いやろうとした図式ができあがっているのである。




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