第27話 やり残した仕事、それは大掃除

今の流れからすれば、元凶を封じればすべてが解決する。


しかし、彼女たちに俺がやっていることを手伝わせることはよくない状況を招いてしまう。


王国の貴族や有力商人に害をなせば、たとえ義がどちらにあろうとも断罪される可能性があったのだ。


「俺の言うことを守れるか?」


「はい、もちろんです。」


「ならば頼みがある。人知れずに北方方面を探り、王弟の所在を掴んでくれないか?」


北方都市に巡察に行っているとはいっても、ひとつの都市に留まっているとは限らない。場合によっては予定とは違った場所で謀略のための行動を起こしている可能性もあるのだ。


「御意。」


まるで家臣や従者のような態度でそう言ったフィアたちは、そのまま目の前から立ち去った。


やれやれと思いながら、王都の清掃を続けることにする。


今夜中にあと二名ほど始末しておきたい者たちがいるのだ。


中には役職を持つ法服貴族もいるのだが、極刑に処せられるような悪業の証拠は掴んである。彼らを処分したら、証拠はエイルに届くよう手配しておけばいいだろう。


全員を心停止アレストで処するとさすがに不自然なため、それぞれに別の処方を試みることにする。


法服貴族は食事中に遠隔で魔法をかけ、飲み込んだ食材を膨張エクスパンションさせて喉を詰まらせ、非道を生業とする暴力組織の頭目はアジトの地盤を局所的に沈下サブサイデンスさせて生き埋めにした。


魔力が残留しないよう処置も施したため、人為的な工作とは思われないだろう。


王弟が自らの勢力を拡大するために利用していたキーマンの中でも有力な三人である。この人的損失は王弟自身だけでとどまらない。


商人は資金調達、法服貴族は地方貴族との連絡係、そして暴力組織の頭目は各地の反社会派勢力と結びついていたのだ。これで奴らの勢力は半壊する。


それだけ大きな力と役割を担っていたことは、これまでの調査でわかっていたのだ。


名付き魔物ネームドとは異なり、厄災そのものを消しても確実に終息しないのが人の悪行というものである。


後はもうひと仕事を終えてから北方都市へと向かい、王弟自身と決着をつけるだけだ。その結末後も燻る組織や人がいるならば、改めて実力行使すればよかった。




「どうぞ。」


冒険者ギルド本部の建物へと入り、最上階にある部屋の前に立った。扉をノックすると聞き慣れた声で返答される。


「夜遅くまでご苦労なことだな。」


扉を開けて中へと入り、部屋の主にそう告げた。


「そろそろ来る頃だと思っていたぜ。」


正面の執務机に座るのは、広域の冒険者ギルドを管理するグランドマスターだった。


俺は部屋の真ん中にあるソファーに腰をおろす。


「聞きたいことがある。」


「賞金首のことだろう?」


「そうだ。」


このグランドマスターとはそれなりに付き合いが長かった。


名付き魔物ネームドの討伐に関する情報提供の大半はこの男からのものだったのだ。


「まずはおめでとうと言っておこうか。」


「ドライアスの討伐のことを言っているのか?」


「それもあるが、ディゴエルたちの敵討ちを果たしてくれたことには俺も感謝している。」


「その俺を賞金首にしたのは誰だ。」


「仕方がないだろう。こっちは生身の人間だぞ。王弟殿下を始め、本音で対応すれば物理的に首が飛ぶ。」


この男はこんなことを言っているが、現役時代は俺と同じアダマンタスだ。


インペリアル・ロイヤルガードが出てくればどうなるかわからないが、有象無象が相手なら軽く捻るだろう。


「いつも言ってるが、そんな冷めた目で俺を見るのはやめてくれ。俺にも立場はあるし、その権限でできることはやってるんだ。」


グランドマスターは弁解するように言うが目が笑っていた。


「俺が冷めた目で見るのは、あんたが狸だからだ。不穏分子を片付けるのにちょうどいいと思ってけしかけただろう。」


「おまえが負けることはないだろうから、一石二鳥というやつだよ。」


さすがに海千山千というやつだ。


こういった奴でなければ、グランドマスターなどという役職には長くいられなかっただろう。


「まあいい。それよりも、俺が賞金首になる発端を作ったのは誰だ?」


王弟が直接依頼してくるなどということはありえない。


ただ、この王都でそれなりの力を振るうことのできる人間でなければ難しいことである。


仮にもソロ、しかも討伐者スレイヤーとしてアダマンタス級の俺は上位貴族と同等の権威を持っていた。任務外でそれを貴族連中に振るうことは難しいが、グランドマスターが簡単に首を差し出せないだけの存在ではある。


地竜ドライアスを討伐した今でも、今後の未知の脅威に備える力は確保しておきたいのが本音のはずだ。しかも、世界中で活動する冒険者ギルドは、一国家になびく真似などできない。


そんなことをしてしまえば、他国からの信用を失ってしまうからだ。



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