第25話 暗躍せし者

"精霊召喚コール"


精霊ニュンペーを呼び出し、国王の憔悴しきった体に癒しヒーリング保護プロテクトの効果をもたらせる。


呪いは解呪の際に想定外の事象を展開する可能性があった。


解呪への抵抗ならまだしも、最悪の場合は被呪者を死に至らしめたり、周囲に甚大な被害をもたらせるようなケースも存在する。


今回は供給されている魔力量が低いため後者の恐れは無いだろう。


供給されている魔力は周囲から吸収して活用するものであるため、呪いをかけた術者をたぐることは不可能だ。


解呪を施す間にかかる国王への負担は精霊ニュンペーがいるから問題ない。


開扉アンギオによって呪いの効果も把握できていた。


古代魔法と精霊術の行使を同時に行える者はほとんどいない。俺とてハイエルフの血を受け継ぎ、祖母からレクチャーされていなければ身につけることなどなかっただろう。精霊術は精霊魔法とは異なり、精霊を使役できるほどの存在でなければ使えないのだ。


"解呪スキングラ"


解呪に成功する。


簡単に見えるが、普通はこれだけのことを行使するためには、少なくとも精霊術士と特級レベルの聖属性魔法士が必要となるのだ。


また、聖属性魔法の解呪はディスペルといい、俺が使ったスキングラの劣化版となるため成功率は極めて低い。そしてこの解呪法に行き着くまでが難関で、枢機卿レベルの者でなければ原因を特定できなかっただろう。


「解呪成功だ。」


後方から、ため息を吐く音が聞こえた。


方向からして王妃だろう。冷静に振舞っていたが、やはり国王の様態に関する心労は深かったのだ。


「これで大丈夫なのか?」


極めて冷静な声でエイルが聞いてきた。


「原因は排除した。だが、消耗や疲弊は残るからな。2〜3日は安静にした方がいいだろう。」


「ありがとう。あなたには救われてばかりですね。」


王妃から礼を言われる。


「お気になされなくても大丈夫です。」


俺は踵を返して立ち去ろうとした。


「ありがとうございました。」


そう言った王妃殿下に笑顔を見せておく。


「ドレッド、少しいいだろうか?」


立ち去ろうとする俺にエイルが声をかけてくる。


呪いをかけた術者について確認したいのだろう。




「そうか、やはり術者の特定は難しいか。」


王城の最上部にある天文館に場所を移した。


ここは、過去に設置されていた宮廷星読士が職場とした所である。


星を観測することで国の行く末を読むという占星術の一種なのだが、先代の国王期を最後に星読士を継承する者はいなくなってしまった。今はただの展望台のようになっている。


ドーム状の屋根で外部からの侵入も難しい形状をしているため、定期的な巡回はあるものの常駐する衛兵はいなかった。


「ああ。だが、あれは魔石の一種を粉状にしたものを服用させて使う呪いだ。細粒化されているからワインなどに投じられていたのだと思う。」


「では、王城内にそれを行った者がいるということか?」


「どうかな。他国を訪れたときの晩餐に仕込まれたのかもしれない。」


「···そうか。」


「不審に思うことはこれまでになかったのか?」


エイルは一瞬躊躇うような仕草を見せた。


「···わかっているのだろう?地竜ドライアス討伐後に襲撃を受け、さらに賞金首にもなっていると聞くぞ。」


「ついでにいえば、この国の暗部の者にも狙われた。」


明確な証言は出ていないが、状況証拠だけでいうなら黒幕の正体はわかっている。


「どうする気だ?」


「あっさり終わらせるなら消せば済むことだ。ただ、魔族が関与している。」


魔族もいろいろだ。


金のために汚れ仕事をする場合もあれば、権力を手中にするために暗躍することもある。


「元凶を潰せば終わるわけではないということか?」


「少なくとも、一時的に終息させることはできるだろう。」


「そうか···王弟殿下は北方都市を視察中だ。」


「わかった。」


それだけを聞いて俺はこの場から去ろうとした。


エイルが王族の所在を部外者に告げたとなると、さすがに王弟殿下の所業を看過できないと考えたということだ。


本来、王族というものはそれほど強い力で守られるべき存在なのである。


インペリアル・ロイヤルガードの筆頭としては、それを漏らすこと事態が胸中穏やかではないはずだ。


「ああ、そういえば約束を覚えているか?」


俺は彼女に振り向きそう言った。


「···ああ、もちろんだ。」


「今回の件が終わったら、ゆっくりと話がしたい。」


そのときのエイルの表情を見て、彼女は敵ではないと感じた。


彼女とて、王族の血を引く公爵家の出身である。


国王や俺の命を狙う可能性がゼロではなかったのだ。


そして、そのような疑いを持つ俺自身に嫌気が差したのは言うまでもなかった。




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