第23話 再会

グライケル卿とはエドワードのことである。


エイルはエドワードの性格を知っているだけに、受けた任務は完遂させるだろうと考えていた。


しかし、不安要素がないわけではない。


エドワードは実直過ぎるのである。


彼が常日頃からドレッドに対して不満を抱いていることは知っていた。


それを抑え込めれない青さがあり、ドレッドに対して辛辣な言葉を吐く可能性もなくはない。それに、どういった思考を持っているか試そうとする可能性すらあった。


国王からの信頼もあり、何者にも負けない圧倒的な力を持っているにも関わらず、王城へと近寄ろうともしないことに対してだ。


以前にドレッドがここへ来たのは、数年前のエルフ国での争いがあったときのことである。


その時ですら、自らが行った行為に「文句があるなら王国は敵と見なす」と公言していたのを思い出す。


憤慨したインペリアル・ロイヤルガードは少なくない。


しかし、彼の発言も事態の真相を知る者にとっては正当なものであるとされてきた。


ハイエルフの血を引くドレッド、そして条約を無視して侵攻を企てた王弟殿下。


どちらに非があるかは火を見るよりも明らかだった。


そして、ドレッドの国王陛下に対する不遜な態度は、王弟殿下の行動を御せないことに対してのイラだちに違いない。


彼は幼少の頃より何も変わっていなかった。


真相を知らない者からすると、例えアダマンタスの討伐者であれど、憤りは抑えられないほど不遜な態度である。


廃嫡されて公爵家を去った過去が、さらに彼の不敬を高慢なものとして映していた。


しかし、あの時に不敬罪をどうのという者は誰一人としていなかったのだ。


それは、近々訪れるであろう大厄災を退けることのできる唯一の希望として見られていたからに他ならない。


そういったドレッドに恨みを抱いている王弟殿下にしても、彼の実力は無視できずにいた。


インペリアル・ロイヤルガード首席である私が、世界最強の討伐者レヴェナントに対抗できるだけの戦力であるという間違った情報を流布することくらいしかできなかったことがその事実を表している。


しかし、その頃に比べて状況は一転してしまった。


レヴェナントが地竜ドライアスを倒してしまったのだ。


喜ぶべき偉業に反して、国内は騒然としていた。


十日ほど前から体調不良を訴えていた国王陛下が、病で伏せってしまっている。


このタイミングは、どう考えてもある者が一計を案じたとしか思えないものだった。


陰で糸を引いているのは高い確率で王弟殿下だろう。


しかし、確証は何もなかった。


国王陛下の容態は、政務の精神的負担が大きいからだという宮廷医師の診断と、謀略であるという証拠を得られないことにより自然と心臓の病ということで結論づけられそうなのである。


だからこそ、インペリアル・ロイヤルガードの中で最も実直なエドワードにドレッドと接触するよう任じた。


エドワードがドレッドと戦い重傷を負ったことはすでに報告されている。


彼がドレッドに戦いを挑んだのは、王弟殿下の一派に対するフェイクであったのだろう。


だが、無事に封書を渡すことができたかについては定かではない。


エドワードはドレッドに負けた後にわずかな時間だけ会話を交わし、彼に追撃を受けて意識を失ったのである。


監視役とは逐一連絡を取ってはいるが、意識を取り戻した報告はまだなかった。所持品に封書がなかったことから、ドレッドに渡ったと思いたい。


しかし、暗部が動いていることや、監視役すらどこまで信じられるかわからないというのが本音だった。


思考に埋没していたエイルは、窓からの微かな音に反応してそちらに意識を向ける。


風の音かと思い視線を向けたときに異変が生じた。


室内にいた二名のインペリアル・ロイヤルガードとメイドが相次いで倒れたのだ。


一瞬、魔力を感じたような気がしたのだが、攻撃されたような強いものではなかった。


「ドレッド様···」


そうつぶやいたのは王妃だ。


彼女の視線の先を見て、私は息を飲む。


いつの間に···いや、先ほどの物音のタイミングか。


それにしても国王陛下や王妃、そして王女と自分以外を気配なく昏倒させるとは、相変わらず非常識な男だった。




「両殿下、不敬をお許しください。」


俺は国王の居室に侵入し、疑わしき者を排除した。


命を奪わないまでも、意識を断っておかなければ王弟に余計な情報が回る可能性があったのだ。


誰が密偵かはわからない。


インペリアル・ロイヤルガードのエイルについては信用できる。


「国王陛下の容態を見て欲しい」と封書に符号を記してきたこともあるが、彼女の生家であるハワード公爵家は王弟と対立していることもあった。


そして何より、この国で俺の実力を正確に評価しているのが彼女だったのだ。


「だ、誰!?」


王女殿下が王妃に抱きつき、恐怖を顔に浮かべていた。


初見なので当たり前の反応だろう。


「大丈夫ですよ、ビクトリア。彼は私の故郷の恩人···いえ、今やこの大陸の救世主なのだから。」


そう告げたのは王妃殿下だった。





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