第20話 過去と向き合うこともたまには必要だ
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エドワードの結界を破るために使った方法は、彼の常識とはかけ離れたものだろう。
結界の範囲内では光属性以外の魔法は無効化される。
それをそのまま受け入れるようでは、ただのビックマウスに過ぎない。
「な、闇属性!?」
あえて光属性に弱体化する闇属性をぶつけてみた。
意図はある。
これまでの敵は俺が魔法を得意とし、それを無効化すれば勝てると浅はかに思っていたのだ。
エドワードもその同類である。
だからこそ、今回も魔法でそれを打ち破り印象をさらに深く植え付けるのだ。
ここで彼を敗退させてその手法が伝播すれば、敵はさらに躍起になって俺の魔法を防ぐ手段の構築に集中するだろう。
そうなれば術式を必要としない
魔法による戦闘手法を無効化することは、すなわち自らの魔法をも封じることになる。そうなれば、相手も地力による戦闘でしか対処できなくなるのが狙いだ。
強力な魔法による戦闘は、周囲に甚大な被害をもたらすのは火を見るより明らかである。無辜の人間を傷つけないための布石とさせてもらう。
「魔法の深淵に至らないものは勘違いが甚だしい。光は闇を打ち消すと同時に、消しきれない闇をさらに深いものとするのは少し考えればわかるものだろう。」
結界が闇属性の魔法に反応し、術式を崩壊させるべく強い光で範囲内の魔法を焼き消そうとする。
しかし、この結界ですべての闇を除外することは無理な話だ。
全方位から強烈な光にさらされたとしても、俺やエドワードという個体のどこかに影は残る。
それは光の強さに比例して、さらに深い闇を刻むことになるのだ。
「なっ!?」
エドワードの衣服や鎧に点在する影が彼を侵食する。
術式により顕現した闇妖精が彼の体を這い、それを蝕む舞踏を演じた。
結界が解け、彼は膝から崩れ落ちる。
命に関わるようなダメージは与えていない。
闇妖精がエドワードに施したのは一時的な魔力欠乏症である。他者の魔力を好んで吸収しようとする闇妖精は、影が濃いほどにその力を増すのだ。
「さて、陛下の状態を聞かせてもらおうか?」
俺は身動きが取れないエドワードに近寄り、その答えを聞いた。
町を離れ、
ハーブティーを入れ、町でテイクアウトした羊の串焼きを食べる。
時間は深夜帯だが、俺の体はエネルギー消費量が人並外れているのだ。朝昼晩の食事とは別に穀物類を除いた間食をするのが常である。
羊肉は特有の臭みがあったが、強めのスパイスとハーブティーがその臭いを洗い流してくれた。串焼きを食べ終えると、塩で燻したナッツ類を口にいれて咀嚼する。
聞くところによるとナッツ類は体に良いらしい。減量したい者は夜中の空腹時に素焼きのものを食べると太らないそうだが、俺はただ好きで食べていた。咀嚼回数が増えると頭の回転もよくなる気がするので、
エドワードから預かった封書を開くことにした。
差出人はインペリアル・ロイヤルガードの首席だそうだ。
「これはあなたと遭遇したら渡せと言われたものです。中身が何かは知りません。あなたなら開ければわかるだろうと···」
エドワードは魔力欠乏症により血の気の失せた顔をしていたが、なぜだか表情はすっきりとしていた。
もともと顔見知りではある。
必要以上に懇意にしようとしていなかったため、彼の背景に何があるかはわからなかった。
ただ、貴族としては甘く、そして優しい好青年だったイメージが強い。それは久しぶりにかわした会話の中でも変わっていないと感じた。
ゆっくりと封を開けて書面に目を走らせる。
どこかで見たような筆跡だと思っていると、最後に書かれた署名を見て理解した。
これは浅くはない関係の者からの手紙だったのだ。
まさか彼女がインペリアル・ロイヤルガードの首席になっているとは思わなかったが、どうやら最後に会ったときより相当な努力をしてきたということがわかった。
実直で正義感の強いところは変わっていないのかもしれない。書かれた文字や内容も几帳面さがうかがえるものだった。
記された内容は端的なものである。
この書面に目を通したら、すぐに王城に来いと書かれているのだ。
彼女にはエドワードが負けることも予想できたのだろう。そして、俺が彼の命を奪わないということもお見通しだった可能性が高い。
しかし、簡単に書いてくれているが、今の俺が王城に立ち入ることはかなり難しいはずだ。
それくらいのことは理解の範疇だろうに、忍び込んで来いとでも暗に示しているのだろうか。
だが、丁度いい。
ドライアスを討伐したら、彼女とは互いに話さなければならないことがあったのを思い出した。
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