第19話 インペリアル・ロイヤルガード
王都に向かう途中の街で体を休めることにした。
冒険者ギルドに向かい、ジェイミーたちがいる場所を伝えて職員を向かわせるように話を通しておく。彼女とティックは捕縛した商人の監視と、亡くなった冒険者の遺体を保全するために残っている。
「お待たせしました。子羊のスパイス焼きとパン、それにニンニクスープです。」
ギルドの受付嬢が教えてくれたおすすめのレストランで食事することにした。
出された料理を口に入れる。
おすすめだけあって、単純な料理なのに手間暇がかかっているのがわかる味だった。
「相席かまわないですか?」
金のかかった一級の鎧をまとう騎士が話かけてきた。
「ああ、かまわない。」
「どうも。」
「いらっしゃいませ。」
新たな客を目敏く見つけたホール係の女性が騎士の横につく。
「この人と同じものを。」
「はい。お飲み物はどうされますか?」
「温かいお茶がいいかな。」
「承りました。少々お待ちください。」
ホール係が去ると、騎士は俺にじっと視線を向けて来た。
「困りますね。戦争でも起こすつもりですか?」
「仕掛けたのは向こうだろう。」
「ふむ···確かにそうですが、変装すらしていないとはね。」
「追っ手が見つけやすいように配慮したおかげか、予想より早かったな。それと、インペリアル・ロイヤルガードが来るとは驚きだ。」
インペリアル・ロイヤルガードは王帝を守護するエリート中のエリートだ。
ガードとは近衛兵を意味し、王城を守護する者たちをそう呼ぶ。国に仕える役職としては一般職の
ロイヤルガードは王族を専門に守護する役職であり、近衛兵の中のひと握りしかいない。さらにインペリアル・ロイヤルガードは近衛兵の最高峰とされ、この国ではわずか12人しか存在しなかった。
「命令ですよ。国王代理からのね。」
彼の名はエドワード・グライケル。インペリアル・ロイヤルガードの第十一席だ。
「敵対するということでいいのか?」
「本心から言えば、これはチャンスだと思ってます。あなたの実力は首席をも凌ぐといわれていますから。」
「目的は名声だけじゃないだろう。」
「そうですね。国王代理の信用を得て重用されるかと。もちろん、負けた場合はあなたが容赦するとは思えませんが。」
負けたら死ぬ。
それがわかっていてこの男は命令を承諾したのだ。ただ、野心家の目ではなかった。
「負けたら陛下の病状を話せ。」
暗に殺さないと告げた。
「···わかりました。」
「せっかくだから頼んだ食事を楽しんでおくといい。しばらくはまともに食べられなくなる。」
「大した自信ですね。」
「自信?そんな不確実なものじゃないさ。」
エドワードは肩をすくめた。
「つまり、この結界の中では魔力を制御できなくなるということか?」
「その通りです。」
町はずれの平原でエドワードが周囲に結界を張った。他者を巻き込まないための配慮らしい。ご丁寧に結界の特徴まで説明してくれているが、騎士道精神というやつだろうか。
「そちらにとっても不利な条件にならないのか?」
「普通はそうかもしれません。しかし、魔法が使えなくてもこちらには剣技があります。あなたを斬ればいいだけの話だ。」
「ひとつ教えといてやろう。俺は普段から自らに
「意味をわかりかねますが。」
「ネームドの討伐は魔法に長けただけでは無理ということだ。パーティーを組んでいるなら個々の特性を生かせるが、俺はソロだからな。素のままだと普段の生活に支障が出るほどの身体能力を身につけている。グラビティはその力を封じるためと、日常的な鍛錬を兼ねるものだ。」
「···理屈はわかりますが、常識で考えればハッタリとしか思えませんよ。」
「この結界のせいでグラビティが解けた。魔法を使わなくても負けることはない。」
そう、魔法が使えないわけではない。
エドワードが施した結界は光属性の特級魔法"
魔力さえ流し続ければ、一定レベルの攻撃を跳ね除け続ける持続型結界術だ。堅牢さは術者の練度と魔力量に影響する。
しかも、この結界内では光属性以外の魔法は発動できない
要は、光属性魔法で攻撃性のあるものを使うか、エドワードの許容を超える魔力を強制供給すれば結界は崩壊する。
前者は光属性を得意とするエドワードにとって対抗は容易いと考えられ、後者は常識的に有り得ないと思っているのだろう。
しかし、その程度は俺には可能である。
むしろそれくらいできなければドライアスには勝てなかっただろう。
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