第18話 勇者との出会いと身の振り方

「···あ、ありがとう。」


「何があった?」


「外に出ようとしたら、いきなり刺されたの。」


「アルファたちはこの保険金詐欺に噛んでいたのか?」


「そうみたい。とは言っても、力を貸すというよりも黙認してお金をせびっていたみたいよ。今回は賞金首のあなたがこの辺りを通りそうだから同行を申し出たと言っていた。」


「すまない。巻き込んでしまったな。」


「それはお互い様よ。それよりもなぜ助けてくれたの?貴方の今の状況なら、私を生かしておく方が不都合だと思えるのだけど。」


アルファたちは金に目がくらんでいたのだろう。冒険者は高ランクになるほど稼ぎがいい。その反面、死亡率が高くなるのが常だ。楽に収入を得たいという奴も当然いる。


俺の首を狙ったのも金と名声を得るためで、アメジスタルがあれば楽な仕事だと事前調査もせずに引き受けたのかもしれない。


冒険者ギルドは国家に属さない世界規模の組織だ。それゆえに冒険者のランクも国際級インターナショナルライセンスと地域限定級ローカルライセンスに分かれている。


ただ、地域限定とはいっても国単位で認定されるため、アダマンマス級というのはかなり腕が立つ。それで慢心したとしか思えなかった。


「ティックは勇者の器なのだろう?先のことを思えばそんなことはできない。」


勇者というのは、この世界に存在する七神に見出された存在だ。


どの神の加護を受けるかは勇者として覚醒しなければわからないが、世の安寧を保つために重要な存在だといえる。不定期に出現する邪神に対抗するためには、勇者の固有スキルが不可欠だからだ。


「···なぜわかったの?」


「俺はハイエルフとのワンサードだ。精霊眼というスキルがある。」


「そう···一年前に神託を受けたのよ。だからまだ未熟だけれど私に同行させていた。」


ティックは内包する魔力は絶大だが、制御や実力とのバランスが悪い。まだまだこれからの研鑽が必要だろう。


「本人にとっては生きにくい宿命かもしれないが、勇者は人々の希望だからな。」


「あなたもそうでしょう?」


「そうだったとも言える。ドライアスを倒して、これからゆっくりしようかと思っていた矢先に、馬鹿が俺を狙い出した。」


「さっき聞いた話では、あなたに非はないと思うけれど···。」


「今は病に伏せってる国王も同じことを言っていた。だが、相手にそういった常識は通用しない。王族や貴族にありがちな思想とプライドに支配されているからな。」


「狙われている理由はそれだけ?確かにあなたの力は脅威と感じる者もいるかもしれない。でも命を狙うことで、その脅威が自分に向くとは考えられそうなものだけれど···もしかして、王家の出身というのは···。」


「それ以上は聞かない方がいい。余計な危険を引き寄せる。」


「そう···ね。あなたの言うとおりだと思う。」


「あの!」


それまで黙って話を聞いていたティックが声をあげた。


「どうかしたか?」


「今は無理だと思うけど···落ち着いたらアルフィリオンさんに弟子入りすることってできないかな?」


「ティック···。」


ティックは真剣な眼差しをしていた。ジェイミーも最初は驚いた顔をしていたが、やがて真顔で俺を見る。


「私からもお願いするわ。命を救ってもらって、さらにあつかましいお願いかもしれないけれど、師事するのにあなた以上に相応しい人はいないと思う。」


「それは原初魔法オリジンをおぼえたいということか?」


「ううん。勇者は各属性に特化してるから原初魔法オリジンの修得は無理だよ。でも、戦いのノウハウはアルフィリオンさん以上に秀でた人はいないと思う。」


勇者というのは万能ではない。


太陽神、月神、戦神、知神、天空神、豊穣神、大地神という七つの神々がそれぞれに選んだ人間なのだが、神の使徒ではなく人の心を持つ稀人と呼ばれている。


器として神託を受け、大成するかはその後の生き方や出会いによって変わる。総じて十代前半に神託を受けるそうだが、中には道を誤り反社会的な立場へと至る者も少なくない。


本人が人格形成や思春期の真っ只中ということに加えて、そのポテンシャルを悪用しようとするヤカラも多く、勇者というのは人々の希望であると同時に脅威へと変わることもあるらしい。


そしてティックの話を受けて、俺の中で納得できるものがあった。


ハイエルフである祖母がつけたアルフィリオンという名前。そして彼女が生前にことある事に言っていた言葉を思い出す。


『あなたは導き手としての運命を背負っている。それに恥じない生き方をしなさい。』


今になってこういうことなのかと思う。


恩師の仇討ちという私怨でドライアス討伐のための準備をしてきた。


ネームドという災厄を幾度も葬り、討伐者としての地位や名声を高めることになったが、次にするべきことが何かわからない。


実家に戻った所で自分には既に居場所はないだろう。


ならば後進を育て、勇者の器に力添えするのもいいかもしれない。祖母が言っていたこととどれだけ合致するかはわからないが、それを第二の人生とするのも一興だと思えた。


「わかった。ただ、今の状況では当分無理だ。しばらく時間をくれ。」


「うん。でもどうやって連絡をとればいいの?」


「機会をみて冒険者ギルド本部のグランドマスターに話を通しておく。」


それからちょっとした話をしてふたりとは別れた。


今回の一件についてはジェイミーがそのまま報告するだろう。


俺のことは包み隠さず伝えるように言ってある。


勇者の器は希少だ。曲解されて俺をかばっているとでも思われるとふたりに先はない。




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