第16話 冒険者たちの挽歌

「アルフィリオンさんって、ものすごく強いよね?」


焚き火を間に挟んでティックと向かいあっていた。


見張りの順番で彼と一緒になり、暇を持て余して世間話をしている。


「強さにもいろいろと基準がある。」


「基準?」


「狭い世界で強がっても井の中の蛙でしかない。」


「上を見ればキリがないってこと?」


「そうだ。何か目的があって、それだけを果たしてきたという意味なら強いとも言える。」


「何か、哲学みたいだね。」


「俺は強さとはそういったものだと思う。」


ティックは頭の回転が速く、理解力が高い。見た目通りの年齢なら知識もかなり豊富といえるだろう。


何かを考える素振りをするテイックを見ながら、後方にあるテントから何人かが身動ぎする気配を感じていた。


「おしゃべりはこの辺りまでだな。」


「動きだしたの?」


「ああ。」


ティックは視線をまったく違う方向にやりながら小声で話すようにしている。


「あの人たちが相手なら苦労しなさそうだね。」


「あいつらだけならな。」


少し離れた所に集団がいる。


こちらを窺いながらタイミングを見計らっているようだ。


テントから何人かが出てきて、こちらに歩いてくる。


「眠れないのか?まだ朝には早いぞ。」


ジャガードたちだ。


こいつらの動きに合わせて、別の所にいる集団も動きだした。


「おまえに意趣返しをしてやろうと思ってな。」


「冗談なら許してやる。本気なら死ぬぞ。」


俺はゆっくりと立ち上がり、ジャガードを睨みつけた。


「余裕ぶっているのも今のうちだ。」


アルファたちがいるテントに視線をやった。


男女に別れてそれぞれにテントを使っているが、まだ動き出す気配はない。


「あいつらなら起きて来ないぞ。」


「何をした?」


ジャガードの顔が嫌らしい笑みを浮かべた。


「夕食にも薬を入れてやった。今度のは見た目や味じゃわからんやつだ。」


「情報通りか。」


「ああ?」


商隊とジャガードたちはグルだ。


さらにいえば、他から近づいてくる集団は盗賊団で、それもこいつらとつるんでいる。


ジェイミーは冒険者ギルドの監査官だった。


冒険者が護衛する商隊には万一に備えて保険がかかっているそうで、盗賊などから被害を受けた場合に補償金が支払われるらしい。


保険は近年で主流となった依頼者を損害から守る仕組みだ。依頼料の10%を任意で徴収して運用している。もともとは船での貿易で海難時に備えた相互幇助で始まった仕組みだが、冒険者ギルドでも大口の依頼主の獲得と保護の観点から始まった。


ただし、補償の対象は荷物だけである。事前に申告と照合が実施され、盗賊に奪われた場合はその市価の80%までが補填される。


この補償が始まってから既に数年が経過しているが、実際に申告される被害は護衛依頼全体の二割弱ほどだそうだ。


残念ながら魔物からの被害に対する補償はない。魔物は自然災害と同じと見なされるのもあるが、盗賊が相手ならその討伐によって被害が一部でも回収できる可能性があるからだという。


因みに、今回の依頼には保険金詐欺の疑いがかかっているらしく、その調査と対策のために参加したのがジェイミーとティックだった。


ティックはともかく、ジェイミーはコランダム級の実力を持っている。


混血であるため、偏見により一般職に就くことが難しい立場なのだが、冒険者ギルドの特別調査員を一定期間務めることでその門戸が開く可能性があるとしてその立場に就いたと教えてくれた。


「俺たちふたりも同じ物を食べたが?」


「おまえらは意識のある上でいたぶってやろうと思ってな。余計な恥をかかした償いをさせてやる。」


アルファやジェイミーたちは、睡眠薬系統に抗う魔法をあらかじめカレンにかけてもらっていたはずだ。


それにも関わらず出てこないということは想定した通りということだろう。


「商隊の全員がグルなのか?」


「そうだ。まぁ、信憑性を持たせるために何人かには死んでもらうがな。」


"豪火絢爛ゴージャス"


聞くことを聞けたので躊躇う理由はなかった。


「ぐわぁっ!?」


「火がっ!」


「ああああーっ!」


ジャガードたちは俺の魔法で全身を燃え上がらせた。


後方から集団の足音が急速に接近してくる。


無重力ゼログラヴィティで全員を浮かせ、ひとりを除いて風刃ウィンドカッターの魔法で両断した。


「すごいね。まったく躊躇いがない。」


事が終わってから声をかけてきたのはアルファだ。


「躊躇う必要なんかないだろう。」


「まぁ、そうだね。」


他のメンバーと共に出て来たジェイミーの様子がおかしかった。血の気のない顔に大粒の汗をかいている。


「おまえらも賞金稼ぎか。」


「そうだよ。金額もそうだけど、君のような化け物の討伐はすごく魅力的だからね。」




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