第15話 不穏な動き

「古代魔法は完全無詠唱だし、通常の魔法障壁も無効化するからね。うちはそんな危険な橋は渡らないよ。」


ドルーガとカレンの意見に同意したのは、多種族マルティレイシャルの茶会ティーパーティーのリーダーである竜神族のアルファだ。


「確かにね。レヴェナントって、幽霊って意味でしょ?音も気配も立てずに対象を滅するからついた二つ名だって聞くし、正体も謎なんだよね。」


「そうよ。神聖不可侵とされてる領域に踏み込むなんて、命がいくつあっても足りないわ。」


彼らの話す内容から、自分の置かれてる立場を詳しく知ることができた。


先日の刺客から得た情報で、王家の誰かが命を狙っているのは確信していた。だが、賞金首として公開されているのは気に入らない。


賞金稼ぎとはいっても、それを実行するのはやはり冒険者である。中にはそれや盗賊の殲滅を専門にしている者たちもいると聞く。彼らは対人戦闘のプロであり、騎士や他の冒険者と比べると厄介な場合が多いのだ。


それに賞金首として指定されたということは、冒険者ギルドもあちら側についたということになる。俺の正体を知る者はかなり少ないが、人相風体や今使っているアルフィリオンの名も公にされるかもしれない。


「アルフィリオンはレヴェナントの案件に参加したりはしないのかな?」


突然話を振ってきたのはアルファだ。


淡いオレンジの瞳を興味深げに輝かせながらこっちを見ている。


「俺のランクはトパーズだぞ。」


苦笑いしながらそう答えた。


「ジャガードとの一件を見ていたけど、君の実力は冒険者ランクでは計れない。おそらくダブルキャリアだと思っているのだけれど。」


ダブルキャリアというのは複数の冒険者証を所持する者のことだ。


「さすがはアダマンタスだな。そうだ、もうひとつの冒険者ランクはコランダムだ。ただ、そちらには本名が入っているからあまり見せられない。」


嘘を言えば余計に詮索され、束の間のチームとはいえ意識の面で連携が取りづらくなるのでそう答えた。


「そっか。詮索するようで悪かったよ。」


よくあるケースだ。


継承権のない貴族や地方の名士などの子息が冒険者として活動することは珍しいことではない。そしてその活動の中で家名をさらすことは、善し悪しはともかくあらゆる面で波紋を呼ぶ可能性がある。


「いや、気にしなくていい。」


「そう、それで君ならレヴェナントに挑むのかい?」


アルファは竜神族に稀に備わる固有スキル"竜の瞳"を持っているのかもしれない。龍の瞳は相手の実力を正確に計ることができる。下手に繕うのはやめにした。


「挑まないな。レヴェナントは王家の出身だと聞いたことがある。反逆がどうのというよりも、単なるお家騒動だろう。」


「へぇ、それは初耳だな。でも、それなら正体が謎なのも納得できるかもね。国王陛下の容態が悪くて次の王位継承争いが勃発したってとこか。レヴェナントが王位を継ぐって言ったら人気が出そうだからね。」


「世界を救った英雄だもんね。それよりも、アルフィリオンって顔に似合わず過激だよね。ジャガードの態度が悪いから清々したけどさ。」


「実力を見せろと言われたから応じただけだ。もちろん牽制の意味合いもあるが、結果的に痛みと恐怖を与えただけで無傷だ。合理的な対応だと思っているが、過激かな?」


「冒険者として間違った対応じゃないと思うよ。でもあれを涼しい顔でされるのはちょっと怖いよ。」


キャティの言葉に全員が笑った。


その中でジェイミーだけが真顔で俺を見ていた。隣にいるティックは苦笑いしている。このふたりは俺に何か含む所がありそうだが、今のところ敵意を見せているわけではないので様子を見ることにした。


「仕事の話に戻るが、アルファは昼食時の一件をどう思ってる?」


昼食のスープに眠り草が入っていた。


類似するハーブと間違えて入れたということだったが、あの薬効は遅延性だが深い眠りに誘うものだ。


「カレンが気づいたから良かったけど、ちょっと厄介だね。」


「確かに間違えやすい薬草だけど、だからこそ護衛任務中に使うのはどうかと思うわ。あれは半日以上経過してから効果を発揮するから、気づかずに食べていたら真夜中に起きれなくなる。」


カレンはエルフの血を引いているだけに薬草などに詳しいようだ。俺も同じような考えを持った。


「商人が調理してたよな。意図的ならマズくないか?」


「ドルーガの言う通りだと思う。ジャガードたちや商人の方には本来のハーブが入っているのを確認した。それに見張りの順番で考えると、あいつらが組んでる可能性がある。」


「アルフィリオンは目敏いね。確かに彼らからは非難する声も上がらなかった。」


「警戒すべきだな。」


「ちょっといいかしら?」


これまで無言だったジェイミーが口を挟んできた。



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