第14話 知らない間に賞金首となっていた
「ぐ···うぅ···。」
ジャガードが慌てて喉もとを抑える。
「ヒール。」
回復魔法を唱えてジャガードの傷を治癒した。
「か···は···てめぇ!?」
俺は再びジャガードの喉笛を切り裂く。
「「「「「···························。」」」」」
「ヒール。」
唖然とした顔をするジャガードに笑いかけた。
「気が済むまで何度でもやるぞ。」
顔を真っ青に変えたジャガードが尻もちをつく。
「も、もういい!?あんたの実力はわかったから。」
ジャガードの仲間らしき男がそう言った。
「そうか?あんたら全員の喉を切って回復すればもっと納得できるだろうが。」
「い···いや···大丈夫だ。」
全員が青白い顔をしながら身を震わせていた。
「恐ろしいことを平然とするのね。」
ジェイミーが感情のこもらない声でそう言った。
「ティックに見せるべきではなかったか?」
ティックは平然としていた。見た目以上に修羅場を潜っているか、肝が据わっているかのどちらかだろう。
横暴に見えるかもしれないが、こういったことは冒険者の間では日常茶飯事でもある。相手に舐められたらその地域で仕事をするのが難しくなるからだ。
ただ、あまり褒められたことでもない。治安を維持する者やギルドに告げ口されたら、同じように仕事にありつけなくなる可能性がある。だからこそ目立たないようにやったつもりだ。
「問題はないわ。あとは私たちが巻き込まれなければね。」
ジェイミーもティックと同様に焦りや恐怖といった感情を出さない。若いがこの姉弟にもいろいろとあるのだろう。
「問題にはならないだろう。実力を知りたがったのは向こうだ。文字通りその身にそれを刻んだだけだからな。」
奴らがギルドに泣きつく可能性は低い。自分たちの弱みを晒し、今後の活動を狭める結果になりかねないからだ。
「恨まれる可能性はあるわ。」
「それは慣れている。」
恨まれて実力行使に出るなら本格的に叩き潰すだけだった。
「そう。」
ジェイミーは素っ気なく答えると、ティックを促してその場を離れていった。かかわり合いになりたくないのだとも思えたが、その目線が逃げて行った奴らを追うように動いていたのが気になる。
「アルフィリオンさん、ありがとう。」
ティックがそう言って姉の後を追う。
魔族の血が入っているなら、あのふたりも見た目と実年齢は異なるのかもしれない。そんなことを感じながら、依頼主の所へ挨拶に向かった。
「そうそう。レヴェナントが賞金首になったらしいね。」
夕食を共にしている狼人のキャティが突然言い放った。
食事時の会話としては物騒な話題だが、冒険者が集えばありがちな話だといえる。
「レヴェナントって、討伐者のか?」
すぐに反応したのは同じパーティーに属している獅子人族のドルーガだ。
このふたりを含む四人は亜人だけで構成された「
そこにジェイミーとティック、俺を含んだ七名が護衛チームの二番手として商隊の後衛を務めていた。亜人や混血種は、表立ってはないが人族から差別を受けることが多い。
慣習や考え方の違いで摩擦が起きることが原因といわれているが、実際は能力値に大きな差異があることで人族が他種族を警戒しているといった方が正しいだろう。
その中でもハーフやワンサードは蔑視されることが多い。それは能力が低い者が多いことや、純血種のプライドに障るからだ。今では人種差別を禁止する国家も多いが、古くから根付いた意識でもあるのでなかなか消えることはなかった。
後衛チームを任されたメンバーはそういった亜人や混血種だけで編成されている。
今は野営の準備も終わり、ジャガードたち前衛チームが見張り役を行っている。俺たちはチーム別に食事を作り、それを食している最中だった。
「うん。ちょっとした筋から、王都で賞金稼ぎが集まって討伐チームを編成しているって情報が入ったんだ。」
「レヴェナントといえば、あのドライアスを倒したって聞く。数万、数十万の人々を救った英雄だと思うのだけど、なぜ賞金首になどされているの?」
同じパーティーのハーフエルフであるカレンが無表情に口を挟んだ。
「詳しくは公表されていないけど、王家に対して反逆を企てているからとか言ってた。」
「反逆ねぇ。国王陛下が病で公の場に出なくなってから王弟殿下の圧政が始まったからそれ絡みかもな。それより、レヴェナントほどの大物になると賞金もデカいんだろうなぁ。」
「確か、200億の値がついたとか。ドルーガはやりたいの?」
「200億···すげえなぁ。でも相手はあのレヴェナントだろ。普通のアダマンタスが10人がかりでも瞬殺されるんじゃねぇの?」
「私もそう思う。レヴェナントは古代魔法の使い手らしいから、敵意を見せた瞬間にあの世行きになるわ。」
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