第13話 冒険者には愚者が集う
「邪魔だ。」
少年を蹴った冒険者の背中を同じように蹴った。
冒険者は吹っ飛んで顔から地面に突っ込んだが自業自得といえるだろう。弱者をいびる奴は因果応報でなくてはならない。
「えぇ···。」
蹴られた少年は体を起こしながら目を丸くしていた。大したケガはないようだが服が汚れている。
「冒険者はバカが多いからな。腹立たしいだろうが、あまり近づかない方がいい。」
「···僕もそうなんですけど。」
「ん?」
「僕も冒険者です。」
冒険者は12歳からなることができる。目の前の少年がそうであってもおかしくはない。
「
少年は生活魔法を唱え、汚れた衣服をきれいにした。
蹴り倒されたのに平気な顔をしている。受け身が上手いのは生まれ持った身体能力やセンスによるものだろう。それに簡単な魔法とはいえ、洗練されていたので興味をひかれた。
"
少年の適性を見た。
興味本位ではあったが、思わぬ出会いだったようだ。
「助けようとしてくれたのだと思いますが、少しやり過ぎですよ。あの人、意識がないみたいですが···。」
「自分でつまずいて頭を打ったんだろう。放っておけばいい。」
「理不尽···。」
少年は笑っていた。
おそらく、冒険者の蹴りを避けられたのに、余計なトラブルに発展しないようにわざと蹴られたのだと思った。
「依頼があるから俺は行く。」
「もしかして護衛任務ですか?」
「なぜわかる?」
「僕もその先の集合場所に向かう所でした。パーティーの買い出しがあったので今から向かうつもりだったんです。買い忘れがないか荷物をチェックしていたらあの人に蹴られちゃって。」
「もしかして、あいつも同じ依頼を受けていたのかな?」
「さあ、わかりません。でも、だとしたらちょっと厄介ですね。」
「まぁ、なるようになるだろう。」
そう言いながら、俺は気絶している冒険者を抱え上げた。
集合場所へ行くと赤髪の女性が近寄って来た。
「ティック、遅かったのね。」
女性は少年に向かってそう言った。
「え、あー、ちょっと道に迷って。」
「そう。で、そちらは···ってジャガードじゃない。」
「街中でつまずいて頭を打ったようだ。」
「あなたは?」
「この護衛任務に参加させてもらうことになったアルフィリオンという。よろしく。」
「そう、若いのにベテランのような風格があるのね。私はジェイミーよ。」
鮮やかな赤髪赤目。
ティックと呼ばれた少年と同じ特徴で容姿も似ていた。
「見た目よりもおっさんだぞ。」
「···ハーフなの?」
「ワンサードだ。」
「そう。」
少し複雑そうな表情をしていた。
彼女たちも同じなのだろう。赤い目は魔族にしかない。いくらかその血を継いでいると思えた。
「姉弟なのか。」
「ええ。」
挨拶は丁寧だが、少し警戒しているように見える。
地域によっては魔族は畏怖されている。人間性がどうのというよりも、並外れた魔力と強靭な肉体を持って生まれたからというのが理由だ。
「う···。」
ジャガードという男が意識を取り戻したようだ。俺は投げ捨てるように放り出した。
「ぐわっ!?」
ジェイミーとティックが目を丸くしている。
「てめぇ、何しやがる!?」
「勝手にこけて気を失ったおまえをここまで担いできた。いちゃもんをつけられるおぼえはないぞ。」
ティックが吹き出しそうになった。
「ふざけんなよ!てめぇがやったんだろうが!!」
「証拠は?」
「······················。」
「証拠がないなら勝手に人を悪く言わないでくれ。」
ジャガードは俺ではなくティックを睨みつける。
「おい、ジャガード。そいつは何だ?」
ジャガードが何かを口にする前に、パーティーらしき三人の男がやって来て問いかけた。
「こいつは俺をいきなり蹴りやがったんだ!」
「俺がやったという証拠もないのにでっち上げるなという話をしていたはすだ。バカなのか?」
「てめぇ!」
「あんたもこの護衛任務を受けるのか?」
ジャガードの怒声を無視して、パーティーのリーダーらしき男がそう言う。
「そうだ。」
「ランクは?」
「トパーズだ。回復魔法が使える。」
「そうか。なら実力を見させてもらう。回復魔法が使えるだけで戦力にならなきゃただのお荷物だからな。」
男はそう言って、ジャガードに顎をしゃくった。ジャガードは獰猛な笑みを浮かべて剣を抜く。
どうやらパーティー仲間らしい。類は友を呼ぶの典型だろう。
「わかった。」
俺はそう言った瞬間、一気に間合いを詰めてナイフでジャガードの喉笛をかっ切った。
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