第11話 偽装して王都を目指す
長年ソロで活動していた理由には古代魔法の秘匿もある。
色を基に構成された古代魔法は絶大な威力を発揮する。使い手が増えると人間同士の戦いにも用いられるため、あまり公にしないようにしているのだ。
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三人の絶命と他に追跡者がいないかを確認してから、俺は髪や瞳の色を魔法で変えた。
これから向かう王都には国内トップレベルの宮廷魔法士たちがいる。一般的な魔法ではすぐに補足されてしまうだろう。
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続いて魔力の性質変換を行った。
古代魔法は、古代言語の理解と適応する魔力がなければ使用できない。
古代魔法の源となる魔力は念動力である。体内と自然界から調達して変換させるのだが、これが適応する者が極端に少ないといわる所以だ。種族でいえば、古代魔法の派生系である精霊魔法や深淵魔法が扱えるエルフ種か魔族、もしくはその係累の一部のみが使える。
現代の魔法は古代魔法を模した劣化版であり、テンプレートとして存在する術式や魔法陣に魔力加えて発動させるだけのものである。魔術や法術とも呼ばれ、その効果は低くはないが属性による制限がかかってしまう。
俺は人間とハイエルフのワンサードである。ワンサードとは三分の一を表すのだが、簡単にいえば人間とハーフハイエルフの間に生まれた子供である。
両親は揃って既に他界しており、長命だった祖母も数年前に病没した。ハイエルフの特徴である耳の形状は遺伝せず、一見すれば人間にしか見えない。ただ、顔の造りはハイエルフの容姿がまぎれており、幸いなことに整っているとよく言われる。髪や眉は父親の家系譲りの黒で、瞳はハーフハイエルフが持つ群青色だった。
黒髪はこの国には珍しく、また碧眼は一般的だが群青色の瞳を持つ者は人族にいないため目立つ顔立ちをしている。また、祖父の頑健な体が遺伝した結果、長身で肩幅が広いが優男の顔を持つ男に生まれてしまった。魔道具である装飾品をいくつも付けていることも相まって、イケメンチャラ男風なルックスなのである。
普通に生きる分には問題ないのだが、家系が特殊なためにあまり目立つのは困りものといえた。そのために討伐者として名を馳せたにも関わらず、レヴェナントという通称名だけが公のものとなり正体不明の存在に至ったのである。
今回は金髪で緑の瞳を持つこの国では一般的な色彩に変更している。耳の形状さえ気にしなければ、ガタイのいいエルフに見間違えられるかもしれない。
肩まである髪を切ろうかとも考えたが、後ろで束ねて結わえることにした。これで額が全開になるため、普段とはまったく印象の異なる男になるだろう。
容姿を変更した後に踵を返し、街に戻ることにした。追跡の目からは逃れることができるはずだ。
素性を偽るため、明朝に冒険者ギルドへと向かう。もうひとつの名前で王都に向かう商隊の護衛任務でも受けられれば、敵の警戒からは外れて行動できるだろう。
朝一番で冒険者ギルドを訪れたが、受付カウンターが混みあっていた。
今から並んでも時間がかかりそうだったので、依頼が貼り出されている掲示板の前に立つ。
近場のものはあるが、王都に向かう商隊のものは見つからない。時期的には作物の収穫時なので数件くらいはありそうなものなのだが、タイミングが悪かったのかひとつもなかった。
とりあえず受付カウンターが空くまで待ってみようと思い、併設されている食事処へと向かう。
冒険者ギルドでは採取した素材の鑑定や任務の達成確認のために待たされることも多く、軽食やお茶などを出すコーナーがあるのが定番だ。
もちろん、騒ぎや諍いが起きにくいように酒は取り扱われていない。
「生ハムとハーブペーストをパンに挟んだもの、それと炭酸水を。」
カウンターで注文してセルフサービスで空いてる席へと向かう。
基本的にソロで活動する冒険者は稀だ。
食事処を利用しているのはいずれもパーティを組んでいる者ばかりで、それぞれにテーブルを利用している。俺は席を探すふりをしながらその場をゆっくりと一周した。
「商隊の規模が大きいな。人数が足りなくないか?」
「魔法を使える奴がいれば勧誘するか?障壁が使えるなら問題ないだろう。」
通りがかりにそんな話し声が聞こえてきた。
話が聞こえそうな位置に空いている席を見つけたので座り、パンを頬張りながら聞き耳を立てる。
「馬車と人員は?」
「馬車は8台、人員は12人だそうだ。」
「それって、何組かのパーティで合同になるんじゃ…」
行先はわからないが、商隊の護衛依頼があるらしい。貼り紙を剥がして見ているのか、請け負う側に条件があって個別に話をされているのかはわからなかった。
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