第10話 殺伐とした世界にようこそ
「下手に動くと俺の魔力がおまえの体内で暴走して弾けるぞ。」
魔力にも個がある。
血液と同じように別の型が体内に入ると互いに反発しあい暴走する。通常ではあまりない事象だが、
脂汗を浮かべた魔族はこちらを睨みつけてくるが、先ほどまでの威勢のよさはなくなっていた。今の状態は血圧が急激に高まった時と同じような症状のはすだ。すなわち、安静にしなければ暴走する。
「雇い主について答えろ。黙秘するなら10秒ごとに四肢が吹き飛ぶ。」
「や、やれるもんならやってみろ!」
魔族は強いが、魔物と同じでセオリーがわかっていれば難しい相手ではなかった。回答が得られるかは相手の根性やプライドしだいというところだろう。
俺は魔族の右足に向けて
最上階の寝室に侵入する。
規則正しいいびきが聞こえてくるベッドに歩み寄り、寝ている男の額に手を添えた。
"
いびきが途絶えて男の記憶がこちらに流れ込んできた。
子供の誘拐や殺害を指示したのはこいつだ。そして、その上にいる者の名前。知りたいことがわかればこの男に用はなかった。
”
男の胸の上に手をかざして命を絶った。
彼は侯爵位を持つ男で、この地域の領主をしている。それなりに治世は安定してるようだが俺の知人に手を出した。まして、幼い子供の命を軽く扱うような奴だ。そのまま生かしておく気にはなれなかった。後に遺恨を残すなら、今この場で死んでくれた方が安心もできるというものだ。
地下にいる魔族は最後まで口を割らなかったため同じように処分しておいた。子供に関してはそのままだ。ギルの所に連れ帰ってやりたい気はするが街中では目立つだろう。
屋敷を離れてギルの店に戻るつもりだった。
昔に断ち切ったしがらみが、ドライアスを討伐したことでまた差し迫ってきたようだ。
人間よりも魔物を相手にしている方が気が楽でいい。
そんなことを思いながら夜の街を歩いた。
深夜にも関わらず、ギルの店の前は大勢の人がいた。
建物の出入口には騎士たちが封鎖するように陣取っている。この街の警備は領主が抱えている私設騎士団が請け負っているらしく、屋敷にもあった侯爵の家紋が鎧に刻まれていた。
「店主と客の何人かが殺されたらしいぞ。」
「マジかよ。この辺りで人が殺されるなんてことは何年もなかったのにな。」
野次馬たちからそんな話し声を聞く。
随分と徹底しているようだ。
犯人は一連の出来事に関係している奴だろう。今もこの辺りで監視されているかもしれないが、気になる気配はなかった。
俺はそっと場を離れ、人に見られないように街から外に出る。
このままでは俺が犯人として追われるかもしれない。
これまでの立場を考えれば拘束されてもすぐに解放されそうなものだが、ドライアスを倒した今となっては楽観的に考えられなかった。
最凶の厄災がいなくなったことで、それに対抗する存在は今までほど特別扱いされない。むしろ、過大な力を持つ要注意人物として危険視されてしまうと考えられた。
襲撃者からの情報で直接指示を出した人物は固有名詞が出ている。また、最初の襲撃者たちは口を割らなかったが、装備品の中に国の暗部が好んで使うダガーを一部が所持していた。
高い可能性で俺は自分の出生国から狙われているようだ。
理由はいくつか考えられるが、首謀者についての確証が得られるように動いた方がいいだろう。
考えを整理しながら移動していたが、後方から巧みに気配を消した連中が追跡しているのがわかった。
ギルの店で見張っていたのだろうが、こちらにとっては都合がいい。
"
後方に向かって広範囲に魔力の波動を送る。これに触れた者は互いの魔力が干渉しあって動けなくなるのだ。
「「「!?」」」
すぐに追跡者の全員が拘束された。
古代魔法に通常の察知は効かないため、発動した時点で気づいても遅いのだ。
"
三人の追跡者は声もなく息絶えた。
尋問しても新たな情報が得られるとは思えない。こいつらはいちおうプロなのだ。
実力はともかく、古代魔法の使い手との遭遇など一生に一度あるかどうかくらいのものだろう。
俺はレヴェナントという通称名で素性を誤魔化し、用いる手法のすべてを極秘にしている。使えると知っている者は少なからず存在する。しかし、その詳細までは知らないはずだった。
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