第9話 戦いに容赦は必要なし
屋敷に侵入し、地下へと真っ直ぐに向かった。
大きい方の地下室への入口を探し出して階下におりる。
家人は全員が深い眠りに入っているので障害となるものは何もない。
現代の魔法との違いは完全無詠唱であることと、解除が古代魔法でしかできないことである。
俺は特別魔力が強いわけではない。幼少期から考古学に興味を持ち、その蓄積した知識が役立っている。
古代魔法は誰にでも使えるものではないため、対人相手にも無類の強さを発揮する。対抗できるのは同じく古代魔法と同じルーツである精霊魔法、しかもハイエルフが使う超級のものくらいだろう。しかし、その古代魔法も打ち消せる強大な魔力を有する種族も存在する。あまり市井には出ないため、これまで遭遇することはなかったので実際のところはどの程度かはわからないが、あまり出会いたいとは思わなかった。
階下に下りるとすぐに人の気配があったが、意識はなく椅子からずり落ちて床で寝そべっているのが見えた。
その奥に鉄の扉があり、そちらからも気配を感じる。
扉が一般的な引き戸なら倉庫といっても差支えのない造りだが、分不相応な頑丈さを見る限り人を収容している部屋で間違いはなさそうだった。
足音を立てないように扉に近づき、気配を窺う。
消え入りそうな弱々しい存在。それが苦しげな呼吸を不規則にさせていた。
寝そべっている男の体を探り、扉の鍵を見つけてゆっくりと解錠する。
「大丈夫か?」
話で聞いていた年齢くらいの狼獣人の男の子がうつ伏せに倒れていた。
わずかに開いたまぶたからは恐怖の色をたたえた瞳が見える。懇願、恐怖、悲哀などがその光に表れているように見えたが、なぜか作り物めいた冷たさを感じる。ふと、その視点がわずかに揺らいだ。
その瞬間、俺は横へと飛ぶ。
片腕をついて両足を回転させながら反転すると、すぐ近くに寝ていたはずの男が迫っていた。
"
相手のナイフが矢継ぎ早に突き出されてくるので障壁を発動した。
しかし、男のナイフは幾何学的な模様を描きそれを消滅させる。
「魔族か?」
その問いかけに、ニタァと笑った男はヘラヘラとしながら間合いをとった。
「おまえは古代魔法が得意だそうだな。だけど俺には通じないぞ。」
この状況を楽しんでいるのか、見下すような視線を向けてきている。
魔族は古代魔法に対抗できる稀有な種族のひとつだ。古代語を解し、膨大な魔力を有する。魔法を極めたとされる魔導祖師を何人も輩出してきた、生まれながらにしての魔法の寵児たち。普通の人間では到底敵わない存在だ。
「子供をどうした?」
「そこにいるだろう。」
「中身はおまえの使い魔だろう。」
「それに気づくか···やはり厄介な奴というのは本当だな。」
「もう一度聞く。子供をどうした?」
「さあな。まだ命はあるかもな。」
奴が笑うと、後ろで子供の姿をした使い魔が立ち上がった。
「その体は子供本人のものだ。おまえに傷つけられるかな。」
「悪趣味だな。」
子供の体を使って攻撃するつもりだ。中身は使い魔だが、まだ助けられる可能性を仄めかしている。
"
「!?」
俺のつぶやきの後、使い魔は消滅する。
「躊躇いもなく消滅させやがった···使い魔が中にいるから、肉体的な死が訪れずに身体が保たれているとは思わなかったのかよ!?」
「子供の精神はもう死んでいるのだろう?それくらいはわかって淘汰させた。魔族が使う
「それでも知り合いの子供の体を見て何も思わないのか?」
「生きているなら思っただろうな。」
「くそっ!?予定が狂った。てめぇがそんな冷血漢とは聞いてなかったぞ。」
「そんなことはどうでもいい。雇い主はここの当主か?」
「答えるわけがないだろう。」
魔族は魔法を発動しようとした。
"
「なっ!?」
俺が先んじて放ったのは何の属性も持たない攻撃だ。
魔力を集束させて細い光線として相手を穿つ。
無属性の魔法は効果が低いが、どの属性とも相性が良く魔力制御さえ上手くできれば絶大な効果を発揮する。しかも詠唱や術式がいらないため、後出しでも先に着弾させることが可能なのだ。
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