第7話 妖精とエルフと旧友と
「エインセルか。どうした?」
「め!」
ふるふると首を振り、必死に俺を止めしようとしているのは小さな女の子の姿をした妖精だった。
エインセルはエルフと同じように長い耳を持つ美しい姿をしている。以前、エルフの国で
「もしかして、こいつらを守ろうとしているのか?」
こくこくと頷くエインセルは20センチメートルほどの体で愛らしい姿をしている。たまに現れてはただ寄り添うようにしているだけなのだが、このように自己主張するのは初めて見た。
「も、もしかして、エインセルと知り合いなのか?」
目の前のエルフがそう口走った。
「そうだな。どうも気に入られているらしい。」
フィアはレヴェナントの声に慈しむような優しさが混じっているのを感じて驚愕していた。
「どれっど、けんはめっ!」
「···わかった。」
エインセルに諌められたレヴェナントが剣を鞘に納めた。
「そうか、エインセルはエルフと仲良しだったな。彼らは悪いエルフじゃないのか?」
こくこくと頷くエインセル。
この妖精はエルフの里をよく訪れては食べ物をもらったり悪戯をよくする。しかし害意はなく、いつもにこにこと笑っているのだ。
エルフが讃える精霊神が生んだとされる妖精エインセルは神聖な存在だとされている。邪悪な心に敏感で災厄を事前に知らせてくれることからも、エルフの皆からは愛される存在であるのだ。
「あの男は連れて行っても大丈夫か?」
レヴェナントが指さしたのは監視役の男だった。
エインセルはこくこくと頷いた後に、どうぞどうぞといった感じで両手で促した。
「ありがとうな。」
レヴェナントは、エインセルの頭を指でちょんと優しく触れてから立ち去って行った。
「エインセルが心を許す存在とは···。」
今のやり取りを見たフィアは、レヴェナントの噂とは違う側面を目の当たりにして混乱していた。
「どれっどとけんかはめっ!」
エインセルがフィアの前まで来て注意を促してきた。どうやらエルフとレヴェナントが争うのを見たくはないようだ。
「レヴェナントはドレッドという名なのか?」
思わず聞いてしまったが、エインセルはこくこくと頷いた後にフィアの額に自分の額をあててきた。
「···これは!?」
意識に直接訴えかけてくるように過去の映像のようなものが広がった。それを見たフィアはエインセルが何を言いたかったのかようやくさとったのだった。
海辺に近い街にたどり着き、宿屋でシャワーを浴びてから遅い夕食を取ることにした。
俺は一軒の場末の飲み屋に入る。
ここは王都からもそれなりに近く、貿易が盛んだ。
既に夕食時を過ぎているとはいえ、街中を行き交う人々は多い。
しかし、ドレッドが入った店は閑散としており、数人の亜人といわれる人種がそれぞれに食事や酒を楽しんでいるだけだった。
「おう、ひさしぶりだな。」
「ちょっと忙しかったからな。」
「はは、名実共に世界最強になったらしいな。前から人外じみているとは思っていたがそれを証明しやがった。」
この店のマスターであるギルは元
狼獣人で剣と身体能力で圧倒的な強さを誇り、その実力は世界屈指ともいえたのだ。
「ずっとドライアスの討伐だけが目標だったからな。」
「目標だからって、普通の人間はそこまで強くなれんさ。俺が引退したのは、おまえがいたからというのもある。安心して任せられるからな。」
ギルは正義感の強い人間だ。ただ、そのために様々なものを犠牲にしている。
故郷の地をまとめる家系に生まれながら、若くして冒険者となり様々な地域を放浪していた。彼には結婚した女性と息子がいたのだが、その家族さえも里に残して魔物の討伐に明け暮れていた。
彼とは共にパーティを組んだことが何度かあったが、ある時を機にそれぞれの道を歩むこととなった。ギルは飲み屋のマスターと良き父親として、俺はソロの
「おまかせでいいか?」
「ああ。」
この店は地元の人間からするとゲテモノを出すことで有名だ。
ゲテモノといってもこの近辺では食べない食物を調理しているからで、地方やそういった料理の味を知る者からすると絶品なのである。
様々な地域に出向いて依頼を遂行していた俺からすると、食わず嫌いは損をしているともいえる。
「まずは
ギルが
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