第3話 人は目標があるからこそ輝ける

地属性のドライアスに対して弱点となる風属性、そして固い表皮を破るために溶解や腐食を誘発させる闇属性の魔法を使用したが、そこでその攻撃では致命傷を与えられないことに気づいた。


結果的に徐々に表皮や魔力を削り、自由に動き回れる足場を狭めて討伐のために迷宮探索で手に入れた魔銃による連射で足止めを行ったのだ。時限魔法の一種である重力グラビティの術式を刻印した弾丸でドライアスの四肢の動きを阻害する。


この魔銃は錬金術士や支援術士、付与術士、魔巧技師などを交えてドワーフの工房で大幅な改造を施してもらっている。単発仕様だった銃身を互換性のある金属で拡張し、着脱可能な十二連装シリンダーをつけた特注品だ。


今の世の中では製造コストが高く、軍にすら配備されていない貴重な古代技術である。しかし、魔物への対応が魔法兵で隊列を作り、一斉放射すれば十分だと考える風潮が強い現代では廃れていく技術となるのは否めなかった。


むしろ、このような強力な魔銃が対人戦闘に用いられずに済むともいえる。魔銃は使い方によっては大した練度のない魔法士でも、城を半壊させる程の威力を出すことができた。これは宮廷魔法士筆頭でも相当な集中と時間を必要とするレベルのものだ。そう考えると、魔銃の凄さがわかるというものだろう。


因みに、俺はこの魔銃のために王都の貴族街で屋敷が買えるくらいの大金を支払っている。しかし、これがあれば戦略の幅は広がり、ソロによるネームドの討伐にも余裕ができるのが実証されていた。巻物スクロール宝珠オーブと合わせて経費は多分にかかるが、生存率や単独ソロで総取りとなる報酬額を考えると見返りは十分すぎるものだといえる。


何にしても、地竜ドライアスは絶命した。


その場で腰を降ろし、負傷した部分の手当てを始める。


回復魔法はあるが、先に傷口の消毒をしなければそのまま癒着してしまい後で大変な目にあう。


浄化魔法というものもあるが、あれは教会の一部の者しか使えない神聖魔法に分類される。解呪もそうだが神聖魔法というのは一種の秘伝とされており、神に仕えた信心深い者にしか使えないのだそうだ。一度調べた事があるが、浄化や解呪の術式はそれほど難しいものではなく、あくまで教会独自の魔法として秘匿されているにすぎなかった。


教会は国家に属さないため、汎用とは異なる技法が必要ということだろう。まぁ、権威を誇るための主張というやつだ。


因みに、神聖魔法を一般の者が修得や使用した場合は、禁忌に触れたとして教会を守護する聖騎士に拘束されて極刑に処せられる。


浄化や解呪が使えればそれに越したことはないが、教会を敵に回すことのリスクが大き過ぎた。教会や聖騎士は多くの国にとって治外法権とされているのである。


しかし、そういった浄化魔法に関する備えも魔道具を使えば解消できたりする。ある意味で抜け道のようなものだが、あらかじめ魔道具に浄化魔法を内包させておけばいつでも使えるのである。


術者は教会に属する魔法士だ。これは教会の規則に反するものではあるのだが、名付き魔物ネームドの討伐に関しては教会が大々的にバックアップしているという宣伝になるため非公式に容認されている。


もちろん、内々ではきっちりとお布施という名目で金銭のやり取りは発生しているのだが、枢機卿との約束事でその額面の半分は孤児の生活や将来のための育成に使われるよう配分してもらっているのだ。


教会にしてみればそれも対外的な宣伝に過ぎないのだろうが、幸いにも孤児院の運営は心優しいシスターたちによって行われていた。


かなり以前の話になるが、ある司祭が孤児の娘に邪な感情を抱いて手を出そうとしたことがあった。たまたま通りかかったシスターが咎めた為に未遂に終わったが、その後に俺が司祭の大事な部分を吹き飛ばしたことにより現在はそういった事件も起こらなくなったようだ。


魔道具で浄化を行った後に回復魔法で傷を完治させた。こういった治療はいつものことだが、慣れによって作業的な行いになっていることにため息を吐く。


時々思うのだ。


ネームドの討伐は意義のあるものに違いない。


しかし、俺自身が意欲や達成感を感じることが無くなってしまった。


しかも、今回の討伐対象は地上最強といわれたドライアスだ。簡単ではなかったが、予想を越えるようなヒリヒリする戦いではなかった。


そろそろ潮時かもしれない。


一番強いネームドを倒して、恩師の仇打ちを終えた今も五体満足で生きている。


この十数年はドライアス討伐のために意欲的な活動をしていたが、その対象がいなくなってしまったことで俺の目標は完全に無くなってしまったのだ。


「終わってしまったな。」


人とは、目標や夢があるからこそ輝けるのだ。


その目標が潰えた俺は、この先何を追い求めればよいのか。ネームドの討伐に執念をかけた分だけ焦燥感は大きいものだった。



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