第4話 大仕事の後ほどルーティンを大事にするのがプロである
ゆっくりと立ち上がり、ドライアスの屍に向けてギルドカードをかざした。
錬金術師が編み出した技法により、ドライアスはその質量を小さくさせて、やがて魔石へと変化していく。
数十年も昔は討伐を終えた魔物から討伐証明となる部位を切除し、それをギルドに提出することで依頼達成としていた。
今はギルドカード一枚で持ち運びにも便利な魔石へと変えられる。
かつての討伐証明は、魔物の血肉がこびりついた不衛生なものだ。そんなものを街中に持ち込むことで感染症を引き起こしたり、血や腐敗の臭いで帰路途中の冒険者が別の魔物に襲われるといった事案が問題となっていた。
毛皮や鱗などといった戦利品を換金できないデメリットは生まれたが、魔石は様々な用途に使われる。対価としては申し分ないだけの富を生むのだから、今ではメリットの方が大きいといえた。
地竜ドライアスの魔石は一見したところ装飾品に使えるだけの美麗さを備えている。しかもかなりの大きさなので、討伐報酬以外にもらえる換金額も相当なものになるだろう。
とりあえず、討伐報告を通信用の魔道具で入れておく。ネームドが息絶えることで他の魔物が動きを活発化させることもあるため、早めに伝えておかなければならない。新たな縄張り争いが魔物間で勃発することも多いので、ここから少し離れた地点では他の冒険者たちが待機しているはずだった。
王都にあるこの国のギルド本部に出向き、詳細報告と換金や報奨金の受取りをしなければならない。
周囲を軽く調査して何かの見落としがないかの確認を行う。
ドライアスが流した血については、水属性の魔法で綺麗に洗い流して他の魔物が寄りつかないように処置をした。
ゆっくりとその場を去り、山の麓へと向かう。
今になって眠気と疲労が襲ってくるが、この辺りで仮眠する訳にはいかない。
最凶のドライアスは魔物にも畏怖される存在だ。厄災としての脅威は去ったが、生態系に影響を及ぼす変化であることに違いなかった。
弱肉強食の魔物たちが新たな覇権争いを始めるまでにはまだ時間がかかるだろうが、こんな所で気を抜くのは自殺行為だといえるのだ。
近くの川で獲った河魚の下処理を行い、表面を軽く焼いてから米をといだ土鍋に入れる。岩塩と少量のニンニク、それに干したキノコを加えて火に焚べた。
米は保存食として優秀だ。脱穀してあるので虫除けの処理は必要だが、香りの強い香草類を入れておけば半年くらいは保存がきく。それに、パンとは違い腹持ちもよいので携行食としては使い勝手が良かった。
炊けるまでにシャワーを浴び、清潔な服装に着替える。
山の麓に着いてから結界を張り、大容量の
ランニングコストは馬車の半分以下で済み、空間収納に入れられることから使い勝手も非常にいい。ただ、
保有しているのは王城や上級貴族の一部、それに教会や大手クランぐらいだろう。俺は私財で購入したが、仕事の経費として考えれば高い買い物ではなかった。野営をするよりもはるかに快適で、体調管理を考えれば買ってよかったと思っている。
特に俺の
「いい出汁だ。」
土鍋の蓋を開けて
魚の身を崩し、お粥のようになった米と混ぜ合わせて食べると出汁が効いていて美味かった。
討伐のためにこの数日間は
レーションは保存が効くように一度乾燥させた食材を練り合わせて燻製にしたものだ。体に必要な栄養素はたっぷりと入っているが美味しいものではない。食事というよりも、ただ栄養を取るために口にしているだけだった。当然のことだが精神的な空腹を満たせるわけではない。それに、討伐完了後も胃が縮小しているため、すぐに腹一杯の食事を取れるわけではなかった。
目の前にある土鍋料理は、徐々に胃を慣らして普段の食事に戻す儀式のようなものだ。
お粥を完食してから土鍋と匙を洗い、結界を張り直して
2〜3時間の仮眠を経てから移動するつもりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます