第4話 おまけ①お風呂タイム
インヴィズィブル・ファング四
おまけ①お風呂タイム
おまけ①【お風呂タイム】
魔法界に来ていたシャルルとヴェアルは、ラグナへと対抗策として、空也から魔法というものを学んでいた。
その時のお話である。
「よし。じゃあそろそろ風呂にでも入るか」
「風呂!!!
ヴェアルはガッツポーズで喜んでいたが、シャルルはソファに座ってしまった。
「あれ?シャルル入らないの?」
「後で一人で入る。先に入ればいいだろう」
「大丈夫だって。お前んとこの風呂とは違って広いから、俺達三人で入っても全然余裕だぜ?」
「そういうことじゃない。お前等と一緒に入りたくないんだ」
「なんでだよ。いいじゃんか。男三人、裸の付き合いって大事だと思うぜ?」
「だよな!だよな!」
そうは言っても、シャルルは大抵シャワーで済ませてしまうし、湯船に浸かるなら浸かるで、一人でゆっくり入りたいと思っていた。
しかしこのヴェアルと空也の二人、どうしても三人で入りたいらしく、シャルルを引きずってでも連れて行こうと話しているのがシャルルの耳にも聞こえてきた。
「じゃあさ、魔法で風呂場まで連れてっちゃえばいいじゃんか」
「俺もそれは考えたけど、シャルル怒らせると怖いってミシェルが言ってたし。魔法界も俺もまだ目ぇつけられたくねえし」
「ああ、確かに」
ごにょごにょと何か話している二人を無視し、シャルルは近くにいた男にワインを持ってくるように頼んでいた。
「わかった。きっとシャルル、自分の身体に自信がないんだよ」
「は?」
「だって、いっつも服着てるし、黒いからしゅっと引き締まってるように見えてるだけかもしれないだろ?」
「まあ、そうかもしれないけど、可能性としてはすごく低いと思うね」
しかし、そうは言っても、ヴェアルもシャルルがマントさえ外しているのを見たことがない。
一見細いようにも見えるが、もしかしたらお腹が出ているのだろうかとか、ちょっとした興味が沸いてきた。
そこで、ヴェアルはある賭けに出る。
「シャルル!」
「なんだ」
「もしお前が一緒に風呂に入らないなら、ジキルとハイドは焼鳥にして食っちまうからな!!!」
まさに、自分の命をかけた賭けとも言える。
幸い、この場にジキルとハイドはいないため、実際にどういうということはないのだが、シャルルの表情が一変したのは分かった。
そこからとてつもないオーラさえ感じ取ったのだが、ヴェアルは一歩も引かない。
なぜなら、もう後には引けないから。
「・・・ヴェアル、そんなことをすれば、どうなるか分かってるんだろうな」
「じ、ジキルとハイドの運命は、今俺が握っている!だから一緒に風呂に入ろう!」
そのやりとりを見ていた空也は、ジキルとハイドというのは確か、シャルルが愛でて止まない蝙蝠たちだったと思い出しながらも、普段の余裕そうなシャルルではなくなったことを面白く思っていた。
普段のシャルルならば、この状況でヴェアルをめっためたにして、ジキルとハイドに近づけないようにするのだろうが、それさえ考えられないようだ。
冷や汗を流しながらも、仁王立ちでシャルルに向かい立っているヴェアルに、シャルルは小さくため息を吐いた。
「わかった」
「まじ!?やっりィ!!!」
「その代わり」
「その代わり?」
「・・・覚えていろ」
「忘れていい?」
そんなこんなで三人とも風呂場へと向かった。
空也はいつも入っている風呂だからか、どんどん服を脱いで真っ裸になると、タオルを肩に置いて入って行く。
続いてヴェアルも脱ぎ終えると、同じように肩にタオルを置いて入って行った。
最後に、シャルルだけは腰にタオルを巻いた状態で入った。
「おー!!!すっげーーー!!!」
「だろ?自慢の大浴場だ!」
空也が自慢するのもうなずけるほど、とても広い風呂場だった。
獅子を象った銅像や、蛇、鷹、龍の四つの銅像が四か所に置かれていた。
「見ろ!ウォータースライダーもあるんだぜ!俺がつけた!」
「すっげー!!やっていいのか!?」
「あったぼーよ!行くぜ!」
ヴェアルと空也はだだだ、と走っていき、何回か転んでいた。
上まで登ると、二人は一気に滑り落ちる。
しかしこのウォータースライダー、ただのそれではなかった。
魔法界ならではなのか、滑っているうちにグネグネと形は変わり、天井からもピンポイントで飴玉が振ってくる。
「うほ!!」
楽しそうに滑り終えると、またその後も何回も滑っていた。
その間、シャルルは二人に見向きもせず、身体や髪を洗い、一人で湯船に浸かっていた。
湯船は丁度良い温度で、湯船につかったのは久しぶりだったシャルルは、片肘を風呂の縁に置いて頬杖をつきながら、目を瞑っていた。
数分後、ようやく満足したヴェアルと空也は、身体と髪をふざけあいながら洗って、それから湯船に浸かった。
「あ、シャルル寝てる」
どぼん、と勢いをつけて湯船に入った二人は、すでに入っていたシャルルを見つけた。
二人が入ってきたしぶきが顔面に思いっきりかかったシャルルは、目をあけて顔にかかった滴を払った。
「あー、良い湯だなぁ」
「本当だなぁ」
「なんか、心がほっこりするなぁ」
「落ち着くなぁ」
「風呂の力ってすごいなぁ」
「世界を平和に出来るよなぁ」
のほほーんと肩まで浸かりながら、二人は足をばしゃばしゃ動かしていた。
全く落ち着きの無い二人に対し、シャルルは微動だにしない。
「シャルルはなんであそこまで一緒に風呂入るの拒んだんだ?」
「そうだぞ。男として裸の付き合いは大事なんだぞ」
「やかましい」
一蹴された二人は、めげない。
「わかったぞ。きっとシャルルは、男の象徴に自信がないんだ」
「ああ、成程な。それなら納得だ。タオルも腰に巻いたままだしな」
「腰に巻く奴は、だいたい自身がない奴なんだよ」
「さすがだな空也。お前の分析には驚かされるぜ」
「ふふん。伊達に女の子と遊んで情報得てないぜ」
「すげーな!師匠!師匠って呼ばせてくれ!空也師匠!」
「おいおいよせよ、照れるだろ。まあ、呼びたいなら呼んでもいいぜ!」
「しゃ!」
「・・・・・・」
ゆっくりと浸かりたかったシャルルだが、こうも二人の五月蠅い会話が聞こえてくると、のんびり入っているわけにもいかない。
さっさと出て夜の散歩にでも行こうと立ち上がろうとすると、それに気付いた二人はまたしても騒がしくなる。
「シャルル出ようとしてる?」
「ダメだぞ!ちゃんと肩まで浸からないとダメだからな!」
「幾ら象徴に自信がないからって、逃げるのも良くない」
「別に笑わないからさ、俺達。こうして一つの風呂に入ってるんだから、全てを共有しようじゃないか!」
「お前等今すぐ血を抜いてやろうか」
もう相手にするのも面倒になって、シャルルは立ち上がろうとするが、肩を空也におさえつけられてしまった。
「まだまだ」
「千まで数えてからな」
「俺はもう出る」
「だからダメだって」
「いーち、にーい、さーん」
「勝手に千まで数えてろ」
無理矢出ようとするシャルルの肩を、なんとか押して行く空也にヴェアルも加勢すると、当然のことながら、湯船の中がばちゃばちゃと慌ただしくなってきた。
ついにシャルルは湯船から立ち上がることが出来たのだが、その時、暴れていたせいでタオルが取れてしまっていた。
「「あ」」
しばし沈黙がおとずれる。
「ねえ、空也たちは何してるの?」
「ああ、なんか分かんないけど、風呂出てきてからずっとああなんだよ」
「どうしたんだろうね?」
周りが見た光景は、ヴェアルと空也が体育座りをしていじけているものだった。
くすんくすんとしている二人に近づいていった、空也の親友でもあるナルキは声をかけてみる。
「空也、何かあったのか?」
「・・・俺にかまうな」
「なんか面倒臭いな。それにヴェアルまで。何があったんだよ?」
「・・・もういいんだ」
「はあ?」
そして、二人は声を揃えて言う。
「「シャルルに弱点はなかった」」
「まったく、騒がしい奴らだ」
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