恋人以上、友達未満

「男は付き合ってる女の肉体的な浮気に対して怒るけど、女は彼氏の精神的な浮気に対して怒るらしい。なんかの記事で読んだ」

 

都内某所の喫茶店にて。大学時代からの友人が、男女の浮気に関する話をしてくれた。


「男が女に肉体的な浮気を許すと、生まれてきた子が自分の子か自信が持てなくなる。女が男の精神的な浮気を許すと、子育てに協力してくれないかもしれない。そうやって『本能的に』、男と女で浮気への認識が違うらしい」


うっすらそんな気もしていたけれど、こうやって言語化されると納得しやすい。


それと同時に、頭の中にあった昔の謎が一つ解けた。かといってそれは、今の私にも理解しがたいものであったが。




だいぶ前に、チャットで知り合った女の人にこう訊かれた。


「付き合う前に身体の関係を持つのって、そんなに悪いこと?」


その人にはいわゆる「セフレ」という関係の人がいた。その人は直接的な表現を避けて「友達以上、恋人未満の人」と言っていたけど。


付き合うほどではないが、毎週会って時間を共にする。それが最近の唯一の楽しみだと、その人は言っていた。


「一緒にいて楽しいんなら、付き合ってもいいんじゃないんですか?」


私はその人に言った。


「うーん……。好きでもないのに付き合ってって言うのは違うと思う。私って正直なところあるから」


この文脈で「正直」という言葉が使われるとは思ってもいなかった。


「好きでもないのに先に身体の関係があるって、どういう気分でやってるんですか」


私は純粋な疑問を口にする。


「んー、好きといえば好きだけど……」


その人が逆に私に尋ねる。


「付き合う前に身体の関係を持つのって、そんなに悪いこと?」




世間知らずの私は、「セフレ」なんてものはフィクションの世界だけの関係だと思っていた。


現実世界で見られるにせよ、ごく一部に限った話だと思っていた。


しかし、世界は私が思っていたよりも、自由に回っているようだ。


恋愛は「尊敬」と「本能」で成り立っている、と私は思っている。


尊敬は、相手を人間として好ましく思うこと。本能は、相手を異性として好ましく思うこと。この二つの要素が揃ってはじめて、人は誰かに恋をする。


その人は、いろんな意味で「正直な人」だったんだと思う。


自分の本能に正直だったから、身体を許した。自分の気持ちに正直だったから、相手を尊敬できず、付き合うことはできなかった。


身体は許せても、心は許せない。この考え方が、友人が言っていた「女は彼氏の精神的な浮気に対して怒る」というのと、少し似ている気がした。


なんとなく、頭では理解できた。


真面目な世界しか知らなかった私は、付き合ってから「恋人以上」の関係になるのだと思っていたけれど、どうやらそうとは限らないらしい。


お互いをよく知らない「友達未満」であっても、そういう関係になり得るのだ。


恋人以上、友達未満の関係。


脳はともかく、心がバグりそうだ。




大人になると、「好き」という気持ちがだんだん分からなくなる。


心が揺らいで相手を好きになるのか、脳が合理的に判断しているのか。


すべての恋が、純粋な「好き」から生まれたら素敵なのに。



ここまで軽い頭痛と吐き気を催しながら書いてきた。


最後くらい少しは文学的な表現で締めたいと思って、私は溜まった息を小さく吐き出した。

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死にぞこないの幸福論 二宮デク @Deku_2no3ya

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