意志なんてものは
意志なんてものは、こと物事を始めるときに限っては、何の役にも立たない。
「痩せたい」と思ったところで痩せるわけでもないし、「英語を話せるようになりたい」と思ったところで、急にペラペラ話せるわけでもない。
マザーテレサの有名な言葉で、
思考に気をつけなさい。それはいつか言葉になるから。
言葉に気をつけなさい。それはいつか行動になるから。
行動に気をつけなさい。それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい。それはいつか性格になるから。
性格に気をつけなさい。それはいつか運命になるから。
というものがある。ある意味ではこれは真理だと思う。
ただ、「言葉に気をつけなさい。それはいつか行動になるから。」というのは、間違っている。
どれだけ「変わりたい」と願い、言葉にして意志を固めたとしても、それがいつか自然と行動に結びつくとはかぎらない。
実際、世の中には「現状を変えたい」「もっと良い自分に変わりたい」と切に願っている人が多くいる。私もそのうちの一人だ。
でも、願っているだけでは何も変わらない。「今日こそ自分を変えるんだ!」と意志を固めても、それだけでは何も変わらない。
その意志が、いつか行動になることはない。自分から行動を起こさない限りは。
私は自分の誕生日が来るまでに、これまでの自分を捨てて「自分を変える」ことを決意した。
まだ十分な計画もないし、先の見通しすら立っていない。この判断が正しいのかすら分からない。
でも何とかして、自分を変えようと思った。そう決意した。その意志を言葉にして、手帳に書き込んだ。その結果どうなったか。
何も変わらなかった。
いつもと変わらない、何でもない日。それが、2X歳を迎える私の誕生日だった。
本当は何かが変わっているはずだった。新しい自分に生まれ変わっているはずだった。これまで何度も「変わること」を願ってきた。繰り返しの今日を終えて、新しい明日が来ることを望んでいた。
でも結局、繰り返しの今日がまた一つ、増えただけだった。
意志なんてものは、何の役にも立たない。そう悟った。
だから私は、ほんの少しだけ、動いてみることにした。
頭を動かすのはとても疲れるので、指を少しだけ動かすことにした。
何も考えず、ずっと頭の片隅にあった言葉を、するっと引っ張り出してきた。
「会社辞めるわ」
その一言を打ち込んで、スマホを閉じた。宛先は母だった。
意志が言葉になって、行動になった瞬間だった。
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