深い崖

目の前に深い崖が横たわっている。


迂回できる道はなく、どうやらここを通るしかないようだ。


向こう側まではそれほど距離があるわけではない。せいぜい十メートルほどの距離。


崖の底をのぞいて見ると、案の定、下は真っ暗で、ひっそりと静まりかえっている。


砂混じりの乾いた風が吹きつける中、ぼんやりと向こう側を見つめる。


この道が正しいという確証は何もない。でもここを通らないと、先に行けないことは分かっている。


何とか頭を働かせて、その辺にある木片をかき集めて、橋のようなものを作ろうとも思ったけど、それも難しそうだ。


この状況を相談できる人もおらず、相談したいと思える人もいない。


世界はこんなにも広く、地面は繋がっていて、どこまでも続いているというのに、なぜか私の世界は閉じている。自分から世界を閉ざしている。


気付かないうちに朝がやってきて、いつの間にか夜に入れ替わっている。


私はずっと、崖の前で座り込んだまま、向こう側のことをぼんやりと考えている。


と言っても、向こう側が楽しい場所というわけでもない。今いる場所が地獄だとしたら、ちょっとだけ居心地のいい別の地獄に移動するだけなのだ。


どこか別の場所に移動するには、何かしらの許可がいる。いくら自由が保障されているとはいえ、その自由が保障されるための許可がいる。


そんなことを延々と考えていると、いつの間にか今日が終わっている。そして、明日は永遠に来ない。今日が終わってやってくるのは、代わり映えのしない今日という日の繰り返し。


どうすべきかは分かっている。何をしなければいけないのかもわかっている。それをしたときの不安も、恐怖も、自分の弱さも、不甲斐なさも、ダメ加減も、どれだけ人に迷惑をかけているかも、全部ぜんぶ分かっている。


だから、今日も崖の前から動けない。


だから、明日もやってこない。

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