第12話 青函フェリー

青函フェリー


昔は青森港のほかに野辺地からも出る船があった、そちらの船は1時間ずれていたことも有り。速さを競うライダーは野辺地から乗ると言うやつもいたが今は既に運行中止になっている。

青森港のフェリーも昔とは違い乗船場所も変更されている。

青森中央から環状線を一路東へと走る、途中でフェリーふ頭の看板が見えたら左折し、後は道なりに進む。

フェリー乗り場の駐車場に到着するとすぐに車検証を持って搭乗窓口へ、昔バイクの料金は3600円(ドライバー込み)だった。

今では両方で片道6000円前後、期間や船室などによって金額が変わるらしい。

昔はほぼ一つしかない料金表だった気がするが、現在その頃の船は既に廃船か、どこかに売りに出されてしまっていると言う話を聞いた。

現在は津軽海峡フェリーと言う会社になって、船も新しくなったようだ到着時間も30分早いので早くまた自走して北海道へ行きたいと思うのだが、今では自分の身体の方が過酷なツーリングに耐えられるかどうか、一番の問題はそこだろう。


受付で搭乗申請用紙に書き込むと車検証と共に差し出す、料金を支払うと後はアナウンスが放送されるまで待つだけだ。

そして約30分ぐらい待つとライダーを先に搭乗するようにとアナウンスが入る、海風を受けながら煙草に火を着けゆっくりとバイクにまたがりタンクバックに目を落とす。

4時間後には函館に到着する、道内の走りは高速道路ではなく俺の場合一般道を多く走るつもりだ。

青森発函館行き、乗船中は寝ていても良いし外を見学しても良いが乗船した後は駐車場への立ち入りが基本禁止されている。

もし波が荒れたときなどに出くわすと揺れて車に挟まれるなんて事が有るからだが。

今までにそういう事が有った時は無いが台風などが北上している時期に出くわすと、最悪日程をずらさなければならなくなるだろう。

今から50年前には青函連絡船という国鉄運営の船が有った。

この船は青森駅とふ頭が直結しており、通路を進むとそのまま乗船できた。

青函連絡船は内部に列車を入れる事ができる船だったが青函トンネルができるとこの船は廃止されることになる、今では記念館として残っているらしい。

その昔青函連絡船が暴風雨に見舞われて沈没したと言う痛ましい事故もあった。


船に乗り込むと2等船室がライダー達の乗船場所になる、緑色のカーペットが敷かれた雑魚寝できるスペース。

俺はすぐに寝る事が出来ずに1時間ほどうろうろするが、同じ船に乗船した強者どもは既に寝息を立てている者もいる。

船の中では酒も売っているが、4時間しかないので飲むのは止めておいた方が良いだろう。

それよりも体を休めることに専念した方が無難だ、4時間の船旅は割と早く終わる。

同じような恰好をしたライダー、そのいで立ちもあるがお互いに気になって来るとどちらからともなく声を掛ける。

「あんた早いな」

「そんなに出してないけどな」

「誰かの紹介か?」

「もしかして皆そっち系?」

「違うのか」

「いや 話には聞いていたが、方向と日程が同じだけだ」

「そうか?あのカウルは何処で手に入れたんだ?」

「自作だよ」

「マジ 後で写真撮らせてくれ」

「どうぞ」

俺は別にこのレースまがいのツーリングに参加しているわけでは無い、だが知り合いからは聞いていた。

俺が参加しても良いかどうか、ソロで走って北海道まで行く事にだんだんもの寂しさを感じていたのは事実だ、だからと言って暴走族にもルーレット族にもなるつもりは無い。

だから毎年7月7日に行われるこの祭典を一度見に来たと言うだけの話。

確かに参加者全員には独特な雰囲気がある、毎年レースまがいのツーリングを続けているのだ、その顔には強者のような自信が見て取れる。

勿論全員とまでは言わないが何度かの事故も転倒も経験して、尚もバイクに乗りこんな所まで走って来るのだ。

「へーそうなんだ、じゃあ来年は参加してみれば?」

「参加できるのか?」

「メールアドレスある?」

「あ、俺のアドレスは…」

俺は次の年、正式に参加することになるのだが、そこでの話はまた今度にしておこう。

アナウンスがかかると先ずは車やトラックから先に降ろす。

あまり早くバイクの元へと行くと排気ガスの洗礼を受けることになる、慣れている者はややゆっくりと下船の用意をする。

案の定、下の駐車場は排気ガスの匂いで充満している、特にこの時代のトラックは今より排気ガス規制が緩く、駐車場は辺り一面灰色だった。


ちなみにエンジンをかける時は注意した方が良い、船員に言われてギヤを1速に入れておいたのを忘れる事が有る。

「あれ、エンジンがかかんない…」

運航中バイクが動かないようにするためギヤを1速に入れるよう指示される、降りる時には気を付けよう。

慣れて来ると車止めやロープを自分で外しても構わない、外した後は邪魔にならないよう端の方へ避けて置こう。

車が半分ぐらい下りてしまえばその後はバイクも下船していいと船員からの指示が出る。

床にはワイヤーフックなどが設置してある為かなりでこぼこしているので、あまり急いで出ないように、ハンドルを取られるので立ちごけになり易いからギアは1速のまま。

そのまま前のバイクの後を付いて下船すれば後はフェリーふ頭を後にしてもかまわない。

乗船確認は基本乗る時の手続きだけで、到着し下船した後はそのまま行ってしまって構わない。

ライダーの中には下船してすぐにふ頭近くのGSへ寄りガソリンを入れる者もいる。

俺は津軽で入れたので一応長万部まではガソリンは持つと考えている、函館から長万部までで約100k。

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