第2話 7月7日
7月7日
それは俺にとっては運命の日だ、特に何か有るわけでは無い。
世間一般では七夕という日、織姫と彦星が一年で一回だけ会う事を許された日。
一人の俺はその年もまた北の大地へ行く計画を立てていた、もちろんソロでのツーリングだ。
それまでは8月に入ってから行ったが、8月に入ると誰もが夏休みを取り観光地は人でごった返す。
折角思いっきり走りたいのに混んでいる観光地になど行っても意味が無い。
それを避けるには7月中に行く計画を立てた方が良いだろう、誰もが思いつく前倒しのツーリング計画。
それならば七夕になぞらえて計画してみたらどうだろう?そう思いたった。
特に何も考えてはいない何かを狙ったわけでもない、だがその頃巷ではいくつかの噂があった。
7月某日走り屋たちが公道でレースをすると。
それは仕事関係で知り合ったバイカーからの情報。
特にその時は何も考えてはいなかった、参加しようとも思っていない。
だが今までは峠専門の走り屋だった俺は、スピードの方へと少し興味が湧いてきた。
日本の国道は通常100k出せる峠道などほとんど無い、それをやろうとすると基本高速道路でしか100k以上のコーナーリングは無理と言う事。
速さを競うなどという事に何も意識していなかった、出発は7月7日午前零時。
その頃のコースは基本首都高から東北道へと入るのが一般的だ、住む場所によっては湾岸線や第三京浜からというやつもいただろう。
基本的には午前零時に出発すれば道は殆ど空いていた、俺が住んでいたのは東京とはいえ田舎に近い。
中央高速から入り首都高速へ、そして東北道へと入って行く。
真夜中のハイウェイ、北へ北へとまるで愛しい彼女に会う為か、の如くスピードはどんどん上がって行く。
今ならあそこまでスピードを出すこともないだろう、スピードメーターはスピードを見るのではなく給油時期とのバランスを見る為にあった。
スピードを上げれば燃費は悪くなり、結果として給油の回数が多くなる。
出来ればそれ用のバイクを手に入れたかったのだが、その当時俺が乗っていたのはV型4気筒のモンスター、そいつはおおよそツーリングには向かないと言って良い。
その理由は160k以上から訪れるドッカンパワー、タコメーターで6000回転と少し回すと吸気が倍になると言うマシーン。
そのせいで160kからの加速も半端ではないが、常に2倍の燃料を食う化け物だった。
長距離をバランスよくスピードを出すのならやはりフルカバードのツアラーを手に入れた方が良いだろう。
まあそれで面白いかという話になると別だが、ちなみにその時の俺はV型4気筒にフロントカウルを装着して走っていた、それは自分で作成したカウル。
外観的にはまあまあと言った所だろう、自画自賛。
自作なんて言うのはそこそこでちょうど良い、あまり突き詰めてやると本業がおろそかになってしまう。
巷では数百万掛けたの、どこそこのショップで改造しただのと言う話もよく聞いていたが。
別に改造パーツ屋をやろうなどとは思っていなかったので、基本的にはいくつかの市販で売られていた改造パーツと自作したカウルくらいで俺は満足していた。
サイドフレームにオイルクーラー、そしてバックステップにメッシュホース。
ブレーキはツーポッド化してステアリングダンパーでハンドルの剛性を高め、高速走行に対応する。
このバイクは高速走行でフレームの剛性に不安があった、その不具合を解消するためだ。
今のバイクならばもっと剛性が高くなっているので改造はそこまでする必要もないだろう。
ハンドルも社外の物に交換して取り回しを良くしてある。
ノーマルだと広すぎてすり抜けするときに邪魔になるからだ、バックミラーも当然のごとく交換する。
デカイ ドロップ型ミラーをショートタイプの四角い奴に交換すれば視認性が増す。
今のデザイン重視のミラーは俺には少し疑問だが、人間の体ってやつは全員が同じ形ではないのでそれぞれにライディングポジションについては言い分があるだろう。
だが俺はポジションに関していえば完璧を目指したのかもしれない、自分だけの完璧を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます