Ep.8
イリアーナが帰った直後、甘露子とヒカリは話し合う。
「イリアーナの話によれば、最近増加傾向にある感染症とナイトメアが関係しているかもしれないってことよね」
ヒカリがそう言いながら寝室を出ようとしたので、甘露子もついて行った。
「でもさ、まだ"かもしれない"って時点なら、違うかもしれないともとれるよね」
ヒカリがブレンドコーヒーをいれている間に甘露子がカウンター越しにヒカリの方を向きながら反論した。
「というと?」
「私が思うに、」
と、ここでまたヒカリに着信が。
ヒカリは片手で甘露子に謝ってから電話に出る。
「あんた、まだ起きてたの? うん、うん」
ヒカリが一瞬甘露子を見た。
「なるほどね、じゃあ、仲間ってこと?」
数分で通話は終了。
「せっかくのホットコーヒーが冷める前に飲みましょ」
カウンター上に、甘露子の分が入ったマグカップが置かれる。
甘露子は頷き、両手で持って口をつけた。
ひとくち飲んでから、また話は戻る。
「イリアーナから聴いた話によれば、感染症の原因となるウィルスを開発している人物が居て、おその人が感染症を広めた犯人じゃないかって。しかもその人はナイトメアのほうのメンバーらしいよ」
ヒカリの話に、甘露子は信じられないとばかりに目を丸くした。
「え~?! 嘘だ! 絶対、悪の組織が関わってるに違いないわ」
ヒカリが深いため息をつく。
「その根拠は?」
「そこまではわからないけれど」
「根拠もなく言うんじゃありません。それに、そんなことするのって、イリアーナくらいだし」
まぁ、そんな彼女ももうこっちの世界に来たからやるわけないけど。と、ヒカリは付け足した。
2人とも無言でコーヒーを飲む。
沈黙が降りた。
一方で、ナイトメアの最年少リーダー・アビー=エレストンは新しいシステムのプログラミングをしていた。それはすでに完成間近だ。
「ふぅ。漸くここまで来たわ」
休憩のために一旦立ち上がり、部屋を出て、喋るメス猫のフランネリアの部屋へ向かう。
フランネリアは猫にして一部屋所有しているのだ。
また、フランネリアはアビーのお気に入りの猫であり、ナイトメア結成時からのメンバーである。
2回ノックしてから、ドアの向こうから許可の声がして、アビーは中へ入った。
ダークバイオレットのカーテンは閉められており、室内は左右のカーテンの間の隙間から差し込む陽光と、フランネリアの白い体毛と、フランネリアの金色の目の光でどうにか見渡せる感じだ。
アビーは入口からフランネリアに声をかける。
「フランネリア、彼女の進捗はどうなの?」
「もう完成しているようよ。買ってこようか?」
「いいえ。私が買いに行くわ」
「外はまだ暗いわ。貴女のような7歳の少女が安全に歩ける明るさには至ってないし」
「もう! 私に口ごたえはしないって結成時に約束したのを忘れたの?!」
「失礼しました、お嬢様」
フランネリアはアビーに駆け寄り、頭を下げた。
「まぁいいわ。そこまで言うならタクシーで行くわ」
アビーに情報提供の報酬に餌をあげた。
その後、アビーは歩いて夜のサーベリア市街へ向かう。
ホログラムの噴水の前が、音楽イベントの会場だ。
知り合いのリー=フィンス主催のこのイベントは毎月開かれている。
DJは主催者のリー=フィンスという女性だ。
アビーは遠回りして噴水前でヘッドホンを耳にくつけて音楽を流すフィンスの横まで行くと挨拶した。
「久しぶりね! ごきげんよう、フィンス!」
フィンスはアビーにすぐに気付いてイヤホンを片耳にだけあてながら仕事をする。
「ごきげんよう、アビー! 良かったら楽しんでってよ!」
アビーは首を横に振る。
「ごめんあそばせ、フィンス! 今夜は貴女の妹さんに用があって急いでるの!」
それだけ言うと、アビーは会場を去り、電話1本で自分の専属のタクシーを呼んだ。
サーベリア市街から西に出たところでタクシーは右折した。
間もなく、アビーはリー=リーンの住むアパートの前でタクシーを降りた。
インターホンを押すと、すぐにリーンが出てきた。
リーンはぼそっと言う。
「品物は出来上がったばかりです。メモリは20GBを20個で合計6万セイレーツかかります」
「一括で払うわ」
「ありがとうございます。
しかし、今回はアビー様より先に買われたお客様がいらっしゃいました」
アビーは驚愕の表情をしてみせた。
「このアビー=エレストンより先に?!」
買ったばかりの品物を落としそうになる。
「その人物は誰なの?!」
アビーはリーンから購入者リストをひったくると、自分より先に買った人物をつきとめる。
購入者は悪の組織のトップだった。
アビーは帰宅後に、リーンから買ったウィルスを研究し、感染症の関係を調べ、そのウィルスに効く新しいプログラムを完成させ、広めることに注力した。
私と彼女のハーモニズムサイバー 色咲鈴子(しきさき・りんこ) @peeepop202212
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