第2章
Ep.6
翌年の4月から3年生になった甘露子とヒカリ。
2人は昼休みに旧校舎の空き教室に集う。
「こんなところまで呼び出してどうしたの、ヒカリ?」
甘露子から先に話しかけた。
ヒカリは窓に這い蹲るように茂る蔦を眺めてから答える。
「あたしたち、運び屋のバイト始めない?」
「運び屋? 何を運ぶの?」
「お客様の貴重で極秘なデータBOXを模軽トラックの後部のレインボーホールに入れて運ぶんだよ」
運び先は既に決められている。埃をかぶったクラウド倉庫から新しいレンタルスペースに運ぶのが主な仕事内容だとヒカリは言う。
模軽トラとは、現実世界の軽トラを忠実に電脳世界に再現された流通手段である。
甘露子はヒカリの話を聞いて目をきらきらと輝かせている。
甘露子の中にも藤九郎と同じように、どこか厨二病に似た何かが秘められているのかもしれない。
ヒカリに運び屋のバイトに誘われた結果、ふたりは放課後に高層ビルの27階の一室で契約書にサインし、個人情報保護に関する事項もしっかり読み込んだ上でサインし、契約成立となった。
運転はヒカリが担当し、甘露子はロードガイド役を担い、コンビで仕事を引き受けた。
ビルの地下駐車場から地上に出た頃には、0と1の雨が降っていた。
配達拠点まで向かう途中のサービスエリアで休憩をとっていたヒカリと甘露子。
輸送拠点と第1ターミナルまで移動しなければならないので休める時間は少ない。
トイレから出てきた甘露子は、先に手を洗っていたヒカリの胸ポケットから着信音が鳴るのが聴こえてしまった。
トイレの個室のドアの陰からヒカリを覗き見る。
ヒカリの話し声を聴くに、電話してきたのはダーククイーンらしい。
通話が終わったところで甘露子はトイレから出てきてヒカリを追いかけた。
やっと横に並んだところで、電話をしていた相手の話の内容を、それとなく聞いた。
内容は、「悪の組織を去って、そっちの世界に仲間入りさせてほしい。もう悪さはしないから」という、ダーククイーンからのメッセージと、――ここから先はヒカリからの提案だが、
「明日の朝4時に茶房で待っているから来てくれ」という旨のメッセージだった。
電話はそれ以降かかってこなくなった。
どうやらダーククイーンはヒカリともう一度だけ恋のやり直しをしたかったようだ。
しかし、ヒカリは甘露子と付き合っているため、否定的に考えているようでもある。
それに、甘露子も心の中の空は曇って、今にも雷が落ちそうだ。
2人は模軽トラに再び乗り込むと、第1ターミナルを目指して出発。
最終ターミナルでレーザーによる検品がされてから、漸くレンタルスペース内の駐車場に入り、指定されている番号の駐車スペースに模軽トラを停めた。
降りた甘露子とヒカリは手分けして二台の中の全てのデータボックスをレンタルスペースへ運び込む。
ひと仕事終えた2人は上司から《帰宅命令》をされて模軽トラで甘露子はヒカリに自宅前まで送ってもらった。
翌日午前4時26分。甘露子はダーククイーンを監視するために茶房に同席している。
カウンターの内側に立つヒカリは、目の前に座るダーククイーンに抹茶を差し出した。
「ヒカリは覚えているかもしれないけど、貴女は知らないだろうから告げるけど、私の本名はイリアーナ=フレミリアだから。覚えといてね、えーと?」
「私の名前は佐々木甘露子です!」
「宜しくね、かんろこちゃん」
一応の友好関係は持っても、やはり甘露子のこころの中の空はなかなか晴れない。
ヒカリとイリアーナのことを恋の疑惑の目で見てしまう。
甘露子の熱視線の意味を、
「あぁ、そういうことか。――イリアーナ、あたしたちはもう、かつてのように恋愛関係を修復することは出来ないの。あたしたちの恋はとっくに終わったの」
イリアーナは目を見開いて、ヒカリと甘露子を交互に見て言う。
「もしかして、アンタたち付き合ってんの?」
ニヤける甘露子。しかし、何も言わない。
「なんだ~! 早く言ってよね!」
「今まで敵対関係にあったんだから、こんな話するわけないでしょ」
「そっかぁ。じゃあ、帰るね」
イリアーナは立ち上がり、きっちり200円払って出入口の向こうへ消えた。
「甘露子も黙ってニヤニヤしてないで、帰るよ。話は終わったんだから、店閉めなきゃ」
「へ~いっ♪」
ヒカリが店の鍵を施錠してから、甘露子を自宅まで模軽トラで送る。
後日、ヒカリはイリアーナを呼び出し、弟の藤九郎に手出はしないことを約束させ、その上で、
今自分たちがしている運び屋の仕事を紹介した。
イリアーナは運び屋という仕事の内容を調べ、自分のデバイスで――送られてきた――契約書にサインした。
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