21-1 最後の願い
おれがもう一人謝らなくてはならないのは、ほかならぬ浜井タテコ、もとい朝霧夕都さんだった。理由は単純だった。
「結局、見つけられなくて、申し訳ありませんでした」
松平平樹の自殺後、一回だけ彼女がミステリー研究会の会室に来たことがあった。もう九月のころだった。
「いいえ。大丈夫です。気にしないでください。あれは、全部わたしの我儘です」
「そんな、浜井さんは……」
「わたしが、そもそも最初に、都会に行きたい、って思ったのがよくなかったのでしょう」
浜井さんは唇をきっと結んでそういった。
「実は、先にペイペイに……松平先生に会ってきたんです。それで、落ち込んでるだろうから、適当に合わせてやってくれって。難しいことを言われてしまいました」
「すみません。あの先生の言うことは真に受けちゃいけません」
「そう思います。会長、わたしが思うに、起こったことはどうしようもありません。ただ一つ、わたしが心配なのは、松平平樹さんのお子さんです」
浜井さんはごく自然、当然のことのようにそう言った。
「もしも本当に彼が犯人なら、正直、人のリコーダーを盗んで、たくさんの人に迷惑をかけた人には違いありませんよ、平樹さんは」
少々残酷すぎるような気がしないでもないことを浜井さんははっきり指摘した。
「わたしは、それよりも、そのことで迷惑が、まだ周りの人に広がるのがよくないと思います」
「それは、そうかもしれませんが……」
「だから、どうでしょう。もう、見つけてしまうことは諦めて、探し続けるというのは」
「探し続ける?」
「そうです。わたしと一緒に部活を作りましょう、甲谷さん」
浜井さんはそういって、一枚の紙を取り出した。
「なんですか、これは」
「この部活は、朝霧夕都のリコーダーを延々と探し続ける部活です。さっき、先生たちと、わたしの家族とも話をつけました。わたし、学校には通いませんが、学籍だけは残ることになったんです。本物の幽霊部員です。ですから、部活には入れます。だから、甲谷さんは、ずっとそんな暗い顔を続けるなら、一生そうしていてください。ただし、方向は、こっちです」
そういって、浜井さんは紙を指差す。部活申請書と、入部と届けだ。
「甲谷さんは、この部活をずっと、平樹さんのお子さんが大きくなるまで、彼にあらぬ疑いがかからないよう、ずっと犯人とリコーダーを探し続ける部活を作ってください。それが、わたしの最後の願いです」
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