20-1 わたしはこの研究会を辞めようかな

「全部、終わったな」

 会長が言った。

 こうして、リコーダーが手元にある。浜井タテコ、と名前の掘られたリコーダーが。

「あと、これも。浜井タテコさんに返してほしい」

 甲谷先生は、どこかくたびれ切った表情で、会室の棚の上に飾られているリコーダーを取り上げると、わたしに突き出した。それには、朝霧夕都と書いてある。

「これも、まぎれもなく朝霧夕都のリコーダーだ」

 そういえば、このリコーダーも朝霧夕都が、浜井タテコが、わたしのおばあちゃんが吹いたらしい。そういう意味では、そもそもこのリコーダーも本物だったのだ。ちょっとこの研究会の、歴代の会員たちが、滑稽で可哀想に思えた。

「っていうか、多分、本物はそっちだろうな」

 先生の指す先は、朝霧夕都のリコーダーだった。

「そもそも、ほとんど出席してないんだから、浜井タテコさんのリコーダーは未使用だろ」

 あまりにも、そういえばもっともなことを先生は言った。

「金木がいたら、発狂もんだろう。いなくてよかったな」

 金木は今、自供した件で謹慎中、あるいは留置所だろう。詳しくは知らない。

「先生、あと、今後の話なんですが……」

 会長が言う。

「リコーダーが見つかったこと、発表しないでいいですか」

「ああ。好きにしていい」

 先生はあっさりとそういった。

「あと、浜井さんも……」

「はい。確かにリコーダーはわたしが見つけましたが、場所を当てたのは会長ですから」

 わたしは少しだけ悔しさを噛みながらそう言った。

「ありがとうございます。先生、おれ、これから会員も、探します。正直、潰れてもいいかと思っていましたが、やっぱりやめます。このままだとおれ達が卒業したら廃部になりそうですが、なんとか来年も、新入生を捕まえます」

「まあ、頑張れよ。三人いればなんとかなるからな」

「そうだ。見つかんないと、来年からおれがだらだらできる場所がなくなるからな」

 ペイペイ先輩も同意した。

「じゃあ、おれもリコーダーの件は他言しないことにする。それが、お前たちの結論でいいな」

「はい。おれは、この部活を絶対に存続させます。それがおれの結論です」

 会長が力強く言う。でも、わたしだって思うことがあった。

「あの、わたしは?」

 そこで、わたしはつい、声を張った。

「え?」

「わたしも、別にやめたりはしませんよ」

 急に、辞めるムードで話されていたので、驚いてしまった。

「いや、いいんですか」

 会長も驚いている。

「よくはないんですが、約束しましたし」

 わたしは、真っ当なことを言ったはずだ。だが、それにも増して、一応、伝えたいことがあった。

「あの、まあ、お世話にもなりましたし、いろいろあって、少し危ない目にも遭いましたが……」

 でも、そうなのだ。このたった数日。これが、異様に。

「楽しかったので、まあ、いいかなって思います。だから、参加はしたくないですが、所属は残していいですよ。文芸部と、兼部で。あの、今まで、ありがとうございました。これからも、所属だけは、よろしくお願いします」

 これが、わたしの、この事件の結論だった。

 こうして、わたしは、どうしてか文芸部とぺろぺろリコーダー捜索研究会の二足の草鞋を是としたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る