18-3 浜井ヨコの事件です

 ぺろぺろリコーダー捜索研究会、それは導大寺高校に存在する、世にも奇妙で気持ち悪い名前の研究会である。その研究会で、夏休み真っ盛りの八月、その会員の一人が意識不明の状態で発見される事件があった。

 犯人は余程動揺していたのか、氷川良哉の後頭部を九回も殴打した後、彼の死を確認せずに早々にその場を立ち去った。そのため、被害者の氷川良哉はいまだに意識不明のまま、警察の保護の元、病院にいる。

 だが、そんな彼が残したスマートフォンのロック解除に成功したわたし達ぺろぺろリコーダー捜索研究会は、ついに事件の全容を知る事になる。

 氷川良哉は、文芸部の部長、宇治末茶男に殴られたのである。凶器には、文芸部の部室に夏休み前まであった巨大灰皿が使われたようだ。

「凶器かどうかはわからんが確かにそれは文芸部の灰皿だ」

 先生は、わたしが見せた松平家所縁の灰皿をそう言った。さすが、文芸部の顧問である。

 わたし達は、図らずも知ってしまったこの氷川良哉殺人未遂事件をどう扱うべきか話していた。場所は、ぺろぺろリコーダー捜索研究会の会室だった。

「その灰皿は死ぬほど頑丈だから、凶器にはぴったりだな。実は、それを使ってたやつを知ってるんだが、そいつは慌てて灰皿を隠すためによく、ゴミ箱に落としてたからな。でも壊れたところは見たことがない」

「じゃあ、やっぱりこれが凶器でしょうか」

「そうかもな」

「とにかく、氷川先輩の犯人が分かったなら、警察に言いましょうよ」

 金木は叫んだ。

「待ってください。自首に、できないでしょうか」

 わたしはそういった。

「なんで」

 金木は言う。

「だって。まだ、本当にそうかわからないですし……」

「そうはいっても……」

「じゃあ、どうしたいんだ」

 先生が訊ねた。

「わたしが、宇治末部長と話して、真実を聞きます」

 無茶なことだとは思う。

「探偵ごっこか」

 先生が冷たく言った。

「違います。でも……」

 わたしの心中は複雑だった。自分でも、自分が何を考えているかわからない。否定はしたが、確かに探偵ごっこだ。でも、それだけじゃない。わたしにとって宇治末部長は、大切な人だ、と思う。だからだ。

「じゃあ、こうしよう。おれが、浜井の安全を見守れるならいい」

 先生は、意外にもそんなことを言った。

「明日、文芸部で宇治末と話せ。おれが、外で様子を見てるから、危なくなったら言え。もしも、犯人が宇治末で、本人たちも自首する気になったら、おれが連れて行くから」

「わかりました。それでいいです」

 わたしは先生に同意した。

「先生、おれも行きたいです」

 金木が急に手を上げた。

「なんでだ」

「おれも、きちんと事件の話をしたいです」

 そういえばこいつも立派な殺人未遂をしている。

「お前……」

「浜井さん、いいですか」

「はい、まあ」

 わたしは頷いた。

「おれも、なにかあったら大変だと思うので、一緒に行きます」

 会長も手を上げた。

「おれも、面白そうだし」

 ペイペイ先輩も続く。こいつだけ動機が不純である。

「まあ、宇治末が捕まったら全員又聴取があると思うから、みんなで行くと手間もないか」

 先生は半ば投げやりにそういった。確かに、金木の罪については、その時なし崩し的にでも判明するはずだ。

「じゃあ、他言無用で。明日、宇治末に、浜井が話をする。いいな?」

「はい」

 先生のまとめに、わたしは頷く。明日、か。どうなるのか、わたしには想像がつかない。でも、部長に聞かなくてはいけないことはたくさんある。そして、それがすべて、この手元のノートにあるのだ。いっそのこと、全部読んでもらえばいいはずだ。

 それこそ。部長の、原稿依頼からこの事件は始まったのだから。

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