16-3 廃部
「なんか、あっという間だったな」
そう、おれは感想した。おれは今、ミステリー研究会の会室の片づけをしている。廃部、もとい廃会が決まったからだ。扇風機ももういらない。会室はすっかり冷え込んでいて、秋を通り越して冬に差し掛かっているようだ。
「そうだな。いろいろあったが、一瞬だったな」
ペイペイもそう感想した。息子さんが亡くなられたことはさすがに堪えたのか、あの日からずっと歯切れが悪い。
「それで、なんですが。先生、ごめんなさい」
おれは、頭を下げた。そう、すべての遠因はおれにある。変に事件を刺激したおかげで、事態が面倒な方向に転じたのは間違いない。
「いや、いいって言っただろう。全部、あいつが招いたことだ。それよりも、本当にやるのか」
「はい。おれは、この事件を、一生終わらない、迷宮入りの事件に、しなくてはならないと思います。だから、この研究会を立ち上げて、朝霧夕都のリコーダーは見つかっていないし、犯人も不明だと、言い続けるつもりです」
「言っておくが、あいつの子供のこととかは心配しなくていいからな。うちできちんと育てるし、犯罪者の子、とかいうやつも断固突っぱねるつもりだ」
そう、結局のところ、おれの心配事は松平平樹の子供だった。まだ四歳ぐらいだという、彼の子供や奥さんに迷惑がかかるのは、さすがに責任を感じる。おれが何を言っても妙なことにしかならないのはわかっているが、できることがあるのなら、おれはそれがやりたかった。せいぜい、おれにできるのは、犯人は松平平樹なのかはわからない、リコーダーも見つかっていない、と必死で叫ぶことだと思った。
「まあ、好きにすればいい。顧問はおれじゃないしな。頑張れよ」
「はい。そうします」
「でも、名前はどうにかならなかったのか」
「え? 変ですか」
「変ていうか、気持ち悪いだろ、ぺろぺろリコーダー捜索研究会って」
先生は笑った。
「そうですか? インパクトがあっていいと思ったのですが」
それに、気持ち悪いぐらいがちょうどいい。だってこれは、おれが巻き起こしたことなのだから。
「まあいいよ。それが、お前の結論なら」
「はい。これが、ぺろぺろリコーダー捜索研究会の」
――探偵に憧れて、でも結局何もできなかった、おれの。
「……結論です」
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