14-1 あてずっぽう考

 堀越を逮捕した警察官、増田幸一と話し、おれは一つの確信を得つつあった。桜井先生はリコーダー盗難事件の当日誰かと酒を飲んでいたのだ。陳腐な発想ではあったが、浜井さんの言うお喋りよりはましだと思ったし、堀越を逮捕した後の桜井の様子についても、増田の発言はどこか歯切れが悪かった。彼もきっと、思い返せば気になるところがあったのだろう。

 それと、もう一つ。共犯者は、あてずっぽうも含まれているが、松平平樹、すなわちペイペイの息子だと思う。今日、ついでに漁った彼の家の中でも、ナイトクルーのブックマッチが出た。

 ペイペイ先生の反応からしても、ブックマッチという細い線で、堀越と彼はつながっているのだ。あとは、これを桜井につなげるだけ。

 そんなことを、歩きながら考え、そのまま会室に戻ってきた。すると、先客がいた。

「おかえりなさい、会長」

「浜井さん、どうしたんですか」

 そこには浜井さんがいた。

「この前は、失礼しました。取り乱して、申し訳ありません」

 すっと立ち上がった浜井さんは、そのまま丁寧に頭を下げた。おれはあっけにとられて硬直した。

「それと、変なことに巻き込んでごめんなさい」

「いえ、大丈夫です。顔を上げてください」

 おれは慌てて言う。浜井さんはそれを聞いてゆっくりと顔を上げた。

「リコーダーも、もう、探さなくていいです。ご迷惑でしょうし」

「いえ、浜井さん。見つけます」

 おれは言い切った。

「実は、少し楽しいんですよ」

 そして、正直に白状した。

「正直、しょうもないことだとは思います。浜井さんが最初に会室に来た時、面倒だとも思いました。でも、おれはミステリー研究会に入るぐらいですから、本当はきっと、こういうことに憧れていたんですよ」

「そうなんですか?」

「そうなんです。だから、感謝もしています。楽しいです」

「本当ですか?」

「本当ですよ。これ、見てください」

 おれは鞄から、数冊のノートを取り出した。

「事件、今まとめているんです。どうなるかわかりませんが、ペイペイの言う通り、いっそのこと小説の体裁にまとめようと思っています」

「そう、なんですね」

 少し気味悪がられているかもしれない。でも、全部本心だ。

「だから、大丈夫です」

「じゃあ、本当にリコーダーが見つかりそうなんですか?」

「そう、だと思います」

 しかしてここで勢いは落ちる。

「共犯者、足止め役も、気になる人がいるんですが……」

「誰ですか?」

「それは、ちょっと」

 言えない。さすがに、ペイペイはよい教師ではないだろうが、それでも恩はあるつもりだ。変なことは言いたくなかった。

「やっぱり、探偵としては、確信を得ないと」

 代わりに適当なことを言った。

「そういうものなんですね」

 あっさり浜井さんは納得した。

「じゃあ、あとはどうするつもりなんですか?」

「うーん、一応、思うところはたくさんあるので……」

 そう、やるだけのことはやってみようと思っていた。松平平樹の家にあったグラスは、一つだったのだ。これにちょっと期待したい気持ちがあった。

「浜井さんのご希望通り、学校を掘り返そうと思います」

「そうなんですか?」

「はい。まあ、確率は低いですが、犯人はグラスを一つ、この学校のどこかに忘れているんだと思います」

 本当に松平平樹の家で見たグラスがペアかなんてわかりはしないが。

「一日でだいぶ進展したみたいですね」

 浜井さんは驚いて言った。

「そうですね。だから、このまま犯人までたどり着きたいものです。だから、とりあえず学校の怪しいところを捜しに行きます。逃げるとしたら、やっぱり門がないところだと思うので」

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