12-8 彼の大見得
リコーダーを必ず見つける、だなんて大見得を切ったはいいが、おれは完全に手詰まりだった。
ナイトクルーに行けばいいのかもしれないが、行ったところでどうなるか。おれを殴った相手が偶然いたとして、じゃあ、彼が何かを知っているのか。きちんと確証を得てから行きたいというのが本音だ。否、単に怖がっているだけなのかもしれない、とも思う。情けないことに、こんなことを考えているだけで頬が痛んでくる気がするのだ。
情けないことといえば、浜井さんにリコーダーのことを問い詰めたときもそうだ。本当はもっと誠実に対応することだってできたのではないか。少なくとも、彼女はあの時泣いていたのだ。何か気の利いた一言でもかけてやれなかったのか。
いっそ探偵ごっことしてきちんと証拠を提示して追い込んだ方がまだましだったかもしれない。思い返しただけでも頭がおかしくなりそうだ。おれは、本当に何もできず、そして今、出来そうもない約束をしてしまっている。
「ちょっと、あんた、なにやってんの」
こうしてドツボにはまっているおれに、声がかかる。
「そこ、掘るのやめなさい。リコーダー探している人ですか」
知らないおばさんがおれに、敵意をむき出しにしている。それもそうである。導大寺高校から少し離れた山道を、おれは特に意味もなく掘り返していた。この辺りの農家の人が良く通る場所故、不審がるのも仕方ない、というよりも、この辺りを朝霧夕都のリコーダー探しで荒らされたことがあるのだろう。
「いいえ。違います」
見つかるわけがないのはおれもよく知っている。
「じゃあ何、あんた酔っ払いかい。夏休みだからってやめなさいよ」
「違いますよ」
そんなに顔が赤いのだろうか。
「酔っ払いはみんなそういうよ。昼間っからなんてやめな」
「飲んでないですよ。すみません。戻しときます」
「ああ、そうしな」
おばさんはそういって去っていく。おれも自棄が過ぎたと反省し、穴をせっせと埋め立てた。戻ろう。ショベルを担ぎ、おれはせっせと導大寺高校ミステリー研究会の部屋に戻った。戻ると、会室で堂々と煙草を吸うペイペイがいた。相も変わらずのダメ教師ぶりである。
「おう、会長。待ってたぜ」
「なんだよ」
「なんだよって、これだよ」
ペイペイはそういって机の上の紙切れを指差した。
「堀越捕まえた警察、その時間に暇らしいから、学校の下の交番に行ってきな」
「ああ、そういえば」
そうだ、そんな話をしていた。
「なんだ、お前が言ったんだろう。なんで昨日いなかったんだ」
昨日は浜井さんを帰した後、その勢いでおれも家に帰ってしまったのだ。
「いろいろあったんだよ」
しかして、今更聞くことがあるだろうか。
「それと、浜井さんはどうした」
「今日は来ない」
「へえ、なんだ、喧嘩でもしたか……まさかお前、ちょっかい掛けたんじゃないだろうな」
そこそこ勘のいいことを言うが、残念なことに全く違う。
「違う」
「そうかあ? お前、様子変だぞ」
そういわれるとなぜだか無性に腹が立つ。
「うるせえな」
「なんだ、顔真っ赤だぞ」
そこまで言われると、暑さにやられたのかもしれない。
「酔っ払いか? やけ酒か?」
どいつもこいつも腹が立つ。
「違う」
「そうか。まあいいや。時間は教えたからな、頼むぞ」
ペイペイはすっくと立ちあがった。
「あと、これはどこで拾った?」
去ろうとしたペイペイだが、ふと足を止めて言う。何かと思ったが、ペイペイの指す先には、ナイトクルーのブックマッチがあった。
「まさか、倅に会ったんじゃないだろうな」
「え? 息子さんですか」
おれは予期せぬペイペイの反応に困惑した。
「違うか。ならいい。急に変なことを言い出したから驚いた」
そういってさっさと出て行ってしまった。そして、少し経ってから、これは光明かもしれないと察した。ナイトクルーの思わぬ常連を知ったようだ。
ひとまず机の上のペイペイのメモを手に取り時間を確認する。そうだ、まだ聞いて、調べることがたくさんある。
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