12-6 リコーダーは何処
おれと浜井さんは、かくしてミステリー研究会の会室を飛び出し、外に出た。
「一旦、道を確認しましょう。それで、リコーダーを見つけるんです」
浜井さんはノリノリでそういい、どこから持ってきたのかショベルを振り上げた。
「前にも持ってましたよね。どこから持ってきたんですか」
「落ちてました」
そんなわけないだろう。おれは浜井さんの手からショベルを奪う。取っ手にべったりと泥がついていたのを落とすと、導大寺高校用務員倉庫、とだけ書いてあった。
「用務員さんのみたいですね」
「あれ? そうですか? じゃあ、返してきましょうか」
「いえ、放ってあったのならいいでしょう。帰りに返します」
「わかりました。そうしましょう」
そこからは、なんだか楽しそうな浜井さんと、露骨にけだるげなおれのパレードだった。校舎から宿直室、すなわち部室棟の端っこの一階までの距離、そこを二人で歩き、影になっているところや植栽の中を覗き込む。浜井さんは知らないようだが、これは事件以後さんざん見た光景である。見つかるはずがないのだ。それでも、彼女の表情は曇ることなく、そのエネルギーたるやどうなっているのか不思議でしょうがなかった。
と、おれはついに遠くから小走りでやってくるペイペイに気付いた。
「おい、お前ら、もうやめてくれ」
ペイペイは軽く息を切らしてそういった。
「なんでですか」
浜井さんは小首をかしげる。
「学校の印象が悪くなるんだって。職員室でもちょっと話題になったぞ」
「それは、ごめんなさい」
浜井さんは素直に謝った。
「おう、素直でよろしい。早く片付けて帰ってくれ」
「はい」
おれも素直に応じる。正直、暑くてたまらなかったし助かった。
「そうだ、堀越捕まえた警察官と話せるようにしといたぞ」
さすが、できる地主は違う。
「できる地主は違いますね」
「褒めても煙しか出ねえぞ」
その割に、生徒から褒められた程度で少し浮かれているようだった。ちょろいやつである。
「で、えっと……」
ペイペイはポケットを、探り、そして、
「駄目だ、メモしたんだが職員室に忘れた。明日なんだが……後で会室に行くから、お前もそうしてくれ」
「職員室に行きますよ」
「違うんだよ。小塚先生は妊婦さんだからな。最近は職員室で煙草を吸うと怒られるんだ」
最近、とくに会室に来ると思ったらそういうことか。煙草ついでにメモを渡すつもりに違いない。すっかり喫煙所代わりである。
「じゃあ、早く戻りましょう」おれは促した。
「会長、その、なんですが」
急に浜井さんが改まっていう。
「わたし、ちょっと疲れたので、これを返していただいていいですか」
そういう彼女の顔が赤い。それもそうである。夏真っ盛りにそんなショベルを振り回していたら疲れるに決まっている。
「わかりました。先に会室にでも戻ってください」
「すみません、ありがとうございます」
彼女からショベルを受け取る。振り返り、さっさか職員室に戻るペイペイと、ちゃんとまっすぐ部室棟へ消えていく浜井さんを見届ける。大丈夫そうだった。おれは適当に辺りを見渡し、適当な物置を見つける。誰が使っているのかもわからないそれを、ごりごりと開き、ショベルを放り込む、と、おれは困惑した。こんなことがあっていいのか。
しばし眉間を抑え、考える。そして、大体を理解した。次は、このまま流れに任せるか、どうするか、である。
おれはこの時、ついに、屋外物置には似つかわしくない、ご丁寧にビニール袋に包まれた、一本のリコーダーを見つけたのである。
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