12-2 リコーダー捜し

 唐突にミステリー研究会の門を叩き、朝霧夕都のリコーダーを見つけてほしい、なんていう依頼を持ち掛けてきた探偵小説の読みすぎな女子生徒、浜井タテコの依頼について、ミステリー研究会顧問、ペイペイこと松平先生の意見は単純明快だった。

「いいじゃねえか。どうせ暇だし」

 ペイペイはもう少し考えて発言してほしい。今おれは宿題をやっているんだ、と突き返したかったが、どこか儚げで、花畑から一輪だけ摘まれた一際美しい花を思わせる彼女の雰囲気に、おれは完全に飲まれていた。そして、

「あ、あの、ですが、それはできません」と口走る。

「駄目なんですか」

 あまりにも悲壮な声で彼女は言った。ダメではない、が。

「なんで探しているんですか」おれは訊ねた。

「それは……」

 彼女は帽子のつばを掴んで俯き、

「わたしの、友達なんです」と浜井さんはそう答えた。

「朝霧さんは今、東京で忙しくしています。ですが、地元でこんなことが起きてしまって、お仕事が手につかないそうなんです。朝霧さんは、わたしにとって大事な友人です。力になってあげたいんです」

「なるほど……」

「断る理由あんの?」

 ペイペイが言う。ない、が。

「安請け合いはできない」

「そんな……」

「でも、どうせ暇ですし、いいですよ。見つからなくても怒らないでくださいね」

 とおれは伝えた。

「ありがとうございます!」

 彼女はさっと帽子を脱いで頭を下げた。そして、ぱっと上げた顔は、どこか控えめながらも、左右対称なきれいな笑顔で彩られていた。

「ですが、一つだけお願いがあります」

 おれはそう切り出す。彼女も、ペイペイも一瞬顔が曇った。

「入会だけお願いします。名前だけで構いません。でも、どこかの誰かがミス研は来年廃部だとうるさいので、黙らせてみたいんです」

 おれは机の下から、入会届を取り出し、彼女へ突き出した。

「ええ。構いません。よろしくお願いします、会長」

 そういって彼女は素直に自分の名前と年組を書く。おれは平静を保ってその様子を見守っていた。後に、ペイペイは待望の女子会員じゃねえか、とか、二年ぶりだあな、とか言っていたかが、おれの関心は、まあ勿論そっちもあったのだが。

 ミステリー好きとして、依頼を貰うという、まるで小説の中の出来事に直面出来た高揚感の方が上回っていた。

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