11-1 手紙
来年度から、家政科だろうと何だろうと、もっと時間を割いてパソコンの授業をきちんとやらせるように進言しようとおれは決意している。
なぜか。理由は単純で、おれは今、文芸部の文集のために、必死で浜井ヨコの原稿をパソコンに打ち込んでいるからである。本来ならおれの仕事ではない。こんなものは浜井自身がやればいいのだ。
それに、浜井が書いたノートの内容のままで文集に載せるわけにはいかない、というのもある。人名から地名、そのほかもろもろ、そのままで出すにはあまりに角が立つ。だが、今おれは、それはそれとして、事実に忠実な版をこうして作っている。浜井の文章ではなく、結局おれが書き直しているのは一緒だが、地名や人名などはそのままだ。なぜかというと、個人的な興味とやり残しに結論が出た、というのもあるが、お前は、きちんと事件のあらましを知っていてもいいと思ったからだ。
この滅茶苦茶な回顧録が、お前のお眼鏡にかなうと嬉しい。
宇治末が自首した後、学校は再度、徹底的に警察の捜査が入った。今度こそ文芸部の部室も捜査され、そのおかげで部室の麻袋の中から少量のガラス片が見つかったり、下水管からも小さなガラス片やスマートフォンの破片、血液をふき取った後であろうタオルの一部などが見つかったらしい。
それから、宇治末も坂岸先生も、自首後は開き直ったように全部を自供したそうだ。こうして事件はあっさりと幕を閉じた。
その後の処遇については、今更ではあるが、これ以上はさすがにプライベートが過ぎると思うのでここには書かない。気になったら聞きに来てほしい。
金木もそうだ。浜井は、法律的に正しい処分を、とだけ言っているので、そういう流れになるだろう。
文芸部は、一応三年生が二人いる。浜井を入れれば三人。部としては厳しいが、来年の新入生にすべてがかかっている状態だ。でも、噂というのは早いもので、すでに宇治末の顛末を知りたがり、文芸部の周りをうろちょろしている野次馬がいる。ちょっと困るが、もしも興味を持ったら入部してくれると助かる、と思うのは不謹慎だろうか。
心配だった浜井の調子だが、今はすこぶる元気そうだ。周りに持ち上げられたおかげか、すでに探偵気取りになっている。最近、漸くホームズを呼んでいるのを見た。女ってのは切り替えが早い。そう思う。
ぺろぺろリコーダー捜索研究会は、文化祭の企画展示のラストスパートだ。アイドル研究会として、新しい部員の獲得を頑張るつもりらしい。
あとは、おれだが、おれは、なんとなく仕事を辞めて、別のことをした方がいいとも思っている。責任を取るとかじゃないが、いろいろなことの始まりになってしまったおれが、のうのうと教職についているのも、いい加減違和感がある。あと、校長はかばってくれたが、さすがにほかの職員とか保護者の目がきつい。全部すっきりしたし、これを機に別のことをを始めてもいい気がする。
とはいえ、ここで全部を投げ出すのもおかしい気がするし……まあ、文化祭が終わったら考えるものとする。
お前も含め、たかがリコーダーで、たくさんの人の人生が狂ってしまった。
そのうち、せめて、お前に謝る機会に恵まれればいい、そう思う。
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