8-3 ペイペイの一番長い日3
結局、松平平太郎は自身が提案した狂言誘拐のせいで本当に軟禁されてしまったわけである。だが、雰囲気が変わったのは、午後に入ってからだった。
「誰かが探しに来ました」
見張りに出ていた花田は、小屋に戻るや否やそういった。
「なんだって? まだいるのか?」
「いえ、すぐにいなくなりました」
「お前、なにかやったか?」
井手口が松平をにらんだ。
「まさか。そんなことするわけがない!」
泣きそうになって松平が言った。本当に縛られている故しょうがない。
「移動するぞ。面倒だ」
そういって井手口はさっと立ち上がり、花田は本当に縛った松平の拘束を解くと、歩けと言わんばかりに背中をどついた。
「歩くから縛りはしないが、妙な事したらただじゃおかねえ」
「はい」
松平は従順だった。
こうして三人は拠点を井手口サンの用意した車の中に移すことになる。そしてさらに、事件が動くのは十九時を過ぎたあたりからだと松平平太郎は回想する。
そのとき、三人は待ち合わせの公園にいた。取り上げられた松平のスマートフォンは朝からずっと井手口のおもちゃになっている。
「この万田とかいうやつ、良く喋るな」
スマホを指差し井手口は言った。
「はい、まあ、そうですね」
適当なことを松平は言った。
「あ、誰か来ました!」
花田がそういった。それは、車の中ですっかり被害者モードの松平にもわかった。なぜならば、車の音が聞こえたからだ。それも、一台や二台じゃない。
「おかしいな。ついさっき、期限を延ばす約束をしたんだが……」
「あれは、やばいです! 井手口さん! あれは、柏木サンの部下です!」
「はあ? どういうことだ?」
ここから先のことを、松平平太郎はこう語った。
「なんかマジでチンピラの喧嘩って感じ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます