8-2 ペイペイの一番長い日2
制服着崩しチンピラ少年は菊田というらしい。そしてゴリラは花田というらしい。そして、もう一人。大物が現れていた。
「こいつが、何か知ってるはずです」
花田が松平平太郎を突き出す。その先にいるのが、かの有名な井手口だった。
「はじめまして。松平です。とりあえず、ここで話すのは何ですから、あちらへどうぞ」
そして、松平平太郎と三人がいるのは、松平邸からほど近い山中にある小さな倉庫の傍だった。倉庫というか、小屋であった。
「こんなところに倉庫があるなんてな」
井手口が言う。
「昔、近くに畑があったときに使ってた道具入れなんですが、秘密基地ってことで残してもらったわけです」
松平はどやりといった。
「ここなら雰囲気出るでしょ。しかも、うちの奴らだって近づかないから完璧」
そういって松平は倉庫をがらりと開いて、中の椅子に座ると、背もたれへ腕を回し、
「ほら、イイ感じに写真撮って。で、それをおれに送れ」
「お、おう」
困惑気味に花田はスマホを構え、松平はそれを確認すると、絶妙に無表情を浮かべながら顔を上げた。その様をぱしゃりと花田は撮影した。
「えっと、送るのは……」
「いいから貸せ」
松平は花田からスマホを奪うとサクサクと操作を行い、自分のスマホに画像を転送した。
「今からおれは、氷川と同じ部活にいる、万田ってやつと、金木ってやつにメッセを送る」
松平は作戦を伝え始めた。
「昨日の二人か?」
「男の方は万田で、研究会の会長な。女の方には送らない。あいつはさすがに何も知らないからな」
「じゃあ、金木は?」
「金木が氷川と仲がいいやつだ。だけど、かなり頭が固い上、話を聞かないから、普通に脅しても氷川の探し物は持ってこないだろう。おれが捕まっても同じだ」
「じゃあ、なんでそいつにも連絡を入れるんだ?」
「おれの計算が正しければ、おれが捕まれば万田が、会長が動く。おそらくそれが金木をイラつかせる展開になるはずだ。思うに、金木は何らかの事情で氷川の探し物を、まだ手に入れていない。手に入れていたら研究会に顔なんてもう出さないだろうからな」
「待て、なんで金木ってやつが氷川の探し物のヒントを持ってるってことになるんだ?」
菊田が訊ねた。
「事件現場のメッセージだよ。リコーダー、その一文ですべてがわかる。いいか、あれはリコーダー研究会全体を指しているように思うだろ? だけど違う。本当のリコーダー研究会はたった一人だ。それがあいつ、金木なんだよ。今でも必死でリコーダーを探しているのはあいつだけだからな。だからこそ、土壇場で氷川を裏切って、あいつは氷川の秘密を独占した。それを伝えようとメッセージを残したんだ」
松平は悠々とそういった。
「だから、証拠は出なくても、犯人は最初っから決まってんだよ。金木だよ。あいつが、全部知ってるはずだ」
「なるほど。じゃあ、金木が氷川の探し物をなんですぐに手に入れないんだ?」
「わかんねえのか?」
ふふっ、と松平は思わず笑んだ。
「あ?」
花田が地響きのように声を上げた。松平は急に真顔になる。
「事件が起きたのは夜の学校だ。おそらく、夜の学校、というのが条件なんだろう。多分、昼間じゃ監視が厳しい場所に、例の物はある。事件当夜は、証拠の隠滅とかで忙しくて、例の物を手に入れることはできなかったんだろう。多分、金木はもう少しほとぼりが冷めたら行動を起こすつもりに違いない」
「じゃあ、お前は」
「そうだ。それを、今やらせる。会長が本気で探し始めると、金木にとっても不都合が多くなる可能性が高い。夜の学校に会長が目をつけたら最後、会長がポカをやらかせば、やっと緩くなった学校の警備も、もう二度と戻らないだろうし。だから、あいつは少し無理をしてでも先に回収しようとするはずだ」
「じゃあ、おれ達がやるのは……」
「そうだ。金木をマークして、あいつの動向を探るんだよ。間違ってもおれたちのところには持ってこないはずだ」
「なるほど。お前、頭いいな」
「だろ? 今日、事件が動く。で、金木が例のブツを奪えばおれ達の勝ちだ」
「わかった。いい作戦だな。じゃあ、花田。お前がこいつを見張れ。もう必要以上にスマホを触らせるな。奪え」
井手口が命令した。
「おう」
「え? どういう……」
「菊田、お前が金木を張れ。生徒のリストがおれたちのチームの部屋にある。顔はすぐにわかるはずだ」
「わかりました」
「松平って言ったっけな」
「はい」
「お前のプランはなかなかだが、おれは慎重なんだよ。予定通り、脅しの線も使わせてもらう」
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