7-8 誘拐事件
南層山公園はとにかく広い公園だ。そもそもテニスコートがあったり、やたらと凝ったアスレチックがあったりするなど、地域のスポーツ振興に一役買っている公園である。故にやたらとでかい駐車場なんかもあったりして、ここが彼らのたまり場である。
そこが今、えらいことになっていた。
「浜井さん、どうしよう、帰ろうか」
会長は遠目から様子を見ながらそう言った。
「確かに、そういう雰囲気ではないですけど」
駐車場にはきっと、そのテの人がたくさんいたりして、わたし達は怖い顔のお兄さんたちに囲まれているはずだった。だが、現実はどうだろう。パトカーが二台ほど。そして今、まさについ昨日ぶりにみる、ゴリラ少年が警察に連行されていく。セットかと思っていたが、着崩し学生服少年はいなかった。不思議なのは、手錠以前にロープで縛られているところ。どうやらわたし達がここに来る前に一波乱あったと見える。
「あ、でも、あれ、ペイペイ先輩じゃないですか」
わたしはちょっと遠くを指差した。なんかすごいやつれたペイペイ先輩が警察のおじさんとなにやら小話している様子。その隣には父親らしいおじさんもいる。
「なんか、無事そうだし、帰ってもいいかなあ」
会長は帰りたがっている。でも、わたし個人的にはすごく気になる。一体、この一時間で何があったのか。柏木サンの喫茶店を後にし、学校でてんやわんやあったこの間に、それはそれは興味深いことがあったに違いない。
「でも、気になりませんか」
「それはそうだけど。でも、あいつの家族の前だし……」
会長の歯切れが悪い。そうだ、わたしは思い出した。ペイペイ先輩にも、いろいろと嫌疑をかけるべきなのだ。だが、そんなわたし達に、ペイペイ先輩の父親らしき人が気づいてしまった。ペイペイ先輩の背中を叩き、そして二人がこっちに歩いてくる。
「万田君ですよね。昼は大したおもてなしもできず、すみません」
「いえ、別にそんな」
会長は少しバツが悪そうに返事をした。
「あの、何があったんですか」
会長に任せていては中途半端に終わってしまう。わたしは声を上げた。
「えっと、こちらは……」
「浜井です。ウチの高校の文芸部です」
リコーダー研究会とは言わなかった。会長がきちんと気配りをしてくれた。やればできるやつである。
「そうですか。浜井さん。平太郎の父です」
今更ながらにわたしはペイペイ先輩の名前を知った。松平平太郎、なるほど。ペイペイ先輩である。
「多分、皆様にもいろいろご迷惑をおかけしたと思います。よかったら家でお話しませんか。平太郎からも、皆様に言わなくてはいけないことがたくさんあると思うので」
「わかりました」
会長より先にわたしは返事をした。すっかりしなびているペイペイ先輩は全くこっちをみない。
「おい、車を」
ペイペイ父がそう呼びかけると、少し遠くにいたポロシャツのおじさんがひょこひょこと車に乗り込み、わたし達の傍まで寄せてきてくれた。
「どうぞ、お乗りください」
ここまできて、大丈夫かという心理が働いた。会長はもう諦めて切っているようで、ありがとうございます、と言って従った。今更ながら、もしもこの人がペイペイ父ではなかったら大胆な誘拐事件である。会長と顔見知りなようなので大丈夫だとは信じたいが。沈黙を貫くペイペイ先輩も少し怖い。
だが、ここまで来たら最後まで。わたしは黒塗りつやつやのその車に乗り込んだ。
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