7-4 浜井ヨコの冒険

 学校が見えるか見えないか、そんな通学路の途中でわたしと会長は作戦の最終確認をした。

 会長の作戦はシンプルだった。もとより、複雑な作戦などポンポン出るものでもない。

 金木は、朝霧夕都のリコーダーのヒント、おそらく氷川のスマホをもってやってくる。わたし達は金木に合流し、一緒に学校でリコーダーを探すふりをしてスマホをなんかこう、隙を見て、あるいは交渉で、気合で、時と場合によっては会長が暴れて手に入れる。会長はどうみてもひ弱そうではあるが、最悪わたしも頑張れば、あのデブからスマホを奪うことぐらいはできるはずだ。それでもって、井手口との人質交換に向かうのだ。ちなみに、井手口に、あと一時間ぐらい伸ばせないか、なんて連絡したら、あっさりと返事が返ってきたそう。軽いなあんたら。

「二手に分かれてます。自分が金木と接触するので、浜井さんは最悪、隙を見て金木からスマホを奪ってもらうかもしれないので」

「わかりました。どの辺にいるといいでしょうか」

「金木は学校の北側に来いっていってるから、自分はそうするので、東門から学校に入って、倉庫並んでるところとか校舎側の植え込みの陰とかに隠れてほしいです」

「あの、監視カメラは?」

「ああ、東門のカメラの位置はわかりやすいから、遠目から見ていい感じに避けて歩いて、いい感じに柵超えれば大丈夫」

 ふんわりとした指示を会長はした。まあ、大体わかるのでよしとする。

「何かあったらスマホで。マナーモードにはしといてください」

「普段からそうです」

 スマホを買ってもらったときから疑問なのだが、着信音なんて設定している人はいるのだろうか。

「じゃあ、よろしく」

 会長はそういってすたすたと学校へ歩く。

「気を付けてください」

 わたしも東門へ向けて歩いた。街灯がいくつかあるので、それを頼りにすれば迷いはしない。遠目から東門の様子を見ると、確かに防犯カメラがあるのがわかる。あんなに分かりやすいと、確かに迂回するのも容易い。わたしは監視カメラの向きに気を付けながら、学校の塀をあっさり超えた。スラックス、あるいはジャージに着替えたかったが、もちろん目撃者はいないので、まあよしとする。

 そして、学校の北側へこっそり急ぐ。プールや生物部が管理している怪しげな池、飼育小屋などなどを尻目に、あと気分的に人目を気にし、校舎に沿って歩く。でも、暗いのでスマホのライトをつけることにする。これで歩きやすい。会長はもう北側についただろうか。あっちには門はなく、柵だけがこのド田舎の山野と高校の境目を作っている。多分、金木が北側を指定したのは侵入のしやすさだろう。きっと今頃、会長はわたしみたいにコソコソせず、金木とどうどうと柵を超えて学校に入ってきているに違いない。

 と、そこで、自分たちのように暗くなってから学校に忍び込んだ氷川先輩のことを考えてしまう。

 そもそも、学校は探しつくされている。普通に考えたらもう学校を探すのがナンセンスなのではないかと思ってしまう。だが、それでも氷川先輩は学校に夜間忍び込み、リコーダーを探しに来たのだ。

 ――なんで夜なんだろう。

 疑問が連鎖する。そうだ、何故、こんなコソコソしないと侵入できない夜中にわざわざリコーダーを探しに来たのだろう。

 リコーダー探しなんてことは昼間にやればいいのだ。別に悪いことをしているわけではない。ぺろぺろリコーダー捜索研究会が学校の地面を掘り返していたって当然のことだ。まあ、もちろん掘り返しちゃいけない園芸部の花壇とか、飼育小屋とかは駄目だろうけど。花壇の名も知らぬ植物に身を隠しながらわたしは思った。

 そこで、漸く気づく。

 わたしの違和感は、柏木サンと話していた時の気持ち悪さはこれ、だった。真面目だから深夜に学校に忍び込んでまでリコーダーを探す? そんなバカな話があるわけがない。真面目なら真面目なりに昼間行動すればいい。

 氷川先輩は、昼間掘り返したら怒られるであろう園芸部の花壇などを探すために、わざわざ夜中、学校に侵入したのだ。

 花壇などは当時、調査済みだろうか。そのほか、勝手に捜索すると怒られそうな施設はどこだろうか。倉庫などは先生に言えば開けてもらえそうだが、例えばそれが、校舎の中に向いていたとしたら。

 ――職員室、生徒指導室、そのほか、生徒がずかずかと踏み込んで怒られる場所は、ぺろぺろリコーダー捜索研究会資料を探してもおそらく空白になっているに違いない。資料を読み込んだ氷川先輩だからこそ、捜索範囲の穴に気付いたのだ。そして、それを受け継いだ金木も、こうして放課後の夜を指定したのだ。どうやって受け継いだかは、知らないが。

 そのとき、灯り代わりのスマホが勢いよく振動した。会長からだ。何かあったのだろうか。しかも通話だ。余程緊急性が高いと見える。わたしは通話をオンにし、スマホを耳に当てた。

「会長、なにか……」

「後ろだ、浜井!」

 瞬間、校舎中に男の大声が響いた。

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